高機能バイオ肥料を利用した水稲の増収減肥栽培技術の実用化
- 課題番号
- 26073C
- 研究グループ
- 東京農工大学、農研機構中央農業研究センター、京都府農林水産技術センター、福島県農業総合センター、
朝日工業株式会社 - 研究総括者
- 東京農工大学 横山 正
- 研究タイプ
- 現場ニーズ対応型 Aタイプ
- 研究期間
- 平成26年~28年(3年間)
- PDF版
- 高機能バイオ肥料を利用した水稲の増収減肥栽培技術の実用化(PDF : 1368.0KB)
1 研究の背景・目的・成果
Bacillus pumillus TUAT1株芽胞をケイ酸質の基剤に封入し、常温で長期保管ができる微生物資材(以下、バイオ肥料と呼称)を開発した。バイオ肥料を水稲の育苗時に施用すると水稲の根の生育が促進され、田植え後も根張りが良くなり、土壌の窒素養分を効率的に吸収するようになる。この作用により10~20%増収し、また、窒素施肥量を30%減肥した場合でも減肥前と同等の玄米収量が得られる。 この技術により、従来は実現が難しかった生産性を損なわずに環境負荷を減らせる水稲栽培が可能になった。
2 研究の内容・主要な成果
(1) 新たに開発した大量培養技術を使い調製したBacillus pumillus TUAT1株芽胞をシリカゲルとゼオライトを原料とした基剤に107個/g封入したバイオ肥料(商品名:キクイチ)を開発・製品化した。従来の微生物入り肥料にはない機械撒きにも適応可能な物理性と1年間の長期保管に耐える品質を有している。
(2) 本バイオ肥料を育苗時に施用すると水稲の根の生育が促進される。田植え後も根張りが良くなり、土壌の窒素養分を効率的に吸収し、分げつが促進される。特に、シグモイド型被覆肥料による本田施用との組み合わせが効果的で、 慣行と同じ窒素施肥量の場合は10~20%玄米収量が増加し、窒素施肥量を30%減肥した場合でも減肥前と同等の玄米収量が確実に得られる。
(3) TUAT1株の全ゲノム配列を決定し、芽胞形成遺伝子の発現を確認した。また、TUAT1株に対するイネのストレス応答と分げつ促進の関係を分子レベルで解明した。さらに、PCR法によるTUAT1株の野外追跡技術を開発し、環境中での動態解明が可能になった。これらの成果により、従来は説明が難しかった「何故、この微生物資材が効くのか」に対して科学的な説明が可能となった。
【公表した主な特許・品種・論文】
(1) 横山 正.バイオ肥料微生物の特性解明とその利用.日本土壌肥料学雑誌.86(5)351-355(2015)
3 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び取り組み状況
(1) 本バイオ肥料は「キクイチ」の商品名で、2017年4月から試験販売、2018年から全国販売される。
(2) 福島県の放射性セシウム被害に係る避難指示解除準備区域で本バイオ肥料の増収効果を実証した。この中で、バイオ肥料施用が放射性セシウムの玄米への吸収を促進しないことも明らかにした。
(3) 京都府のブランド米産地で本バイオ肥料の増収効果を実証した。この中で、食味スコア向上の効果も認めれたことから、新設の大規模育苗センターへの導入が計画されている。
(4) 本バイオ肥料の使用方法を解説したバチルスバイオ肥料「キクイチ」マニュアルを作成した。
(ウェブ版を東京農工大学農学部植物栄養学研究室HP http://web.tuat.ac.jp/~plantnut/で公開中、冊子版は同研究室で配布)
【普及目標】
(1) 2017年は、キクイチ販売量1t(約30ha分)を計画。
(2) 2018年は、キクイチ販売量5t(約150ha分)を計画。
(3) 将来的には、生産性を損なわずに環境負荷を減らせる水稲栽培が全国で可能になる。
4 開発した技術・成果が普及することによる国民生活への貢献
環境負荷を減らせ、同等の収量性が確保できるならば、肥料代の節約になり、生産者の収益が向上する。このことは、延いては消費者にとっても安定的な主食の供給が担保されることになり、主食の安定供給という農政の基本命題に大きく貢献できる。
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