イチゴの遺伝子解析用ウイルスベクターの構築と利用技術の開発
- 課題番号
- 27017A
- 研究グループ
- 宇都宮大学農学部、栃木県農業試験場
- 研究総括者
- 宇都宮大学 夏秋 知英
- 研究タイプ
- 重要施策対応型
- 研究期間
- 平成27年~29年(3年間)
- PDF版
- イチゴの遺伝子解析用ウイルスベクターの構築と利用技術の開発(PDF : 943.5KB)
1 研究の目的・終了時の達成目標
イチゴをより高品質な輸出商品にするためには品種改良が必須であり、品種改良を迅速化する育種技術の確立のためには、DNAマーカーによるイチゴ育種の高度化が必要である。しかし、イチゴは8倍体でゲノム構造が複雑なため通常のDNAマーカー開発は困難なことから、遺伝子本体を明らかにしてDNAマーカー化する必要がある。そのためには、有用遺伝子の効率的な解析法が必要とされている。そこで本研究は、イチゴの遺伝子解析に利用するウイルスベクターの構築を達成目標とする。
2 研究の主要な成果
(1)わが国のイチゴで広く発生している3種のウイルスの塩基配列はDNAデータベースに登録されていなかった。そこで、本事業では3種のウイルスの日本分離株の全塩基配列を初めて決定した。なお、この塩基配列をもとに、LAMP法で3種のウイルス検出に使用できる新たな特異的プライマーを設計した(「イチゴの病原ウイルス由来の核酸を特異的に増幅するためのプライマーセットおよびイチゴの病原ウイルスの検出方法」平成29年12月 特願2017-246577)。
(2)3種のウイルスのうち、イチゴマイルドイエローエッジウイルス(SMYEV)とイチゴ斑紋ウイルス(SMoV)はRNAウイルスであるため、まず全ゲノムをDNAにし、接種できる感染性クローンを構築した。なお、SMoVの感染性クローンの構築は世界初である。
(3)SMYEVとSMoVの感染性クローンに外来遺伝子を挿入する制限酵素切断部位を挿入し、その感染性を確認した。SMYEVベクターは半年以上イチゴで維持され、安定したウイルスベクターの構築に成功した。
(4)選抜した炭疽病耐病性関連候補遺伝子のうち、DNAデータベースとの比較解析で3個まで絞り込んだ。また、8倍体でも発現が抑制されていると考えられる保存性の高い領域を明らかにし、PCRプライマーを設計した。
3 今後の展開方向
(1) 構築した2種のウイルスベクターによる発現抑制あるいは外来遺伝子発現の汎用性を確認し、イチゴ遺伝子機能解析技術を確立し、イチゴの有用遺伝子の本体を明らかにする
(2) 今後の研究では、イチゴの遺伝子発現を抑制するために、ウイルスベクターによるイチゴDNAのメチル化技術を新開発する。
【今後の開発目標】
(1) 2年後(2020年)は、ウイルスベクターによるイチゴ遺伝子機能解析技術を確立する。
(2) 5年後(2023年)は、メチル化により形質を改良したイチゴ系統の作出技術を確立する。
(3) 最終的には、迅速なイチゴの遺伝子解析技術とメチル化技術を融合した画期的な新品種作出技術を確立する。
4 開発した技術シーズ・知見の実用化により見込まれる波及効果及び国民生活への貢献
(1) ウイルスベクターの利用でイチゴの遺伝子解析、例えば四季成り性に関する遺伝子解析が進み高品質な四季成り性品種が開発されると、6月から11月の輸入28億円の約半分15億円が日本の新品種に代わる。耐病性遺伝子を解明して萎黄病・炭疽病による推定被害額65億円の約4分の1を減少することで15億円の損失を抑えられる。
(2) ウイルスベクターを利用したイチゴ遺伝子の機能解明技術が確立され、より美味しく安全安心な国内産イチゴを夏場も含め年間安定して供給することにつながれば、国民の健康増進の上でも、海外への輸出においても大きく貢献できる。
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