麹菌の不和合性機構の解明と有性生殖の発見による交配育種法の開発
- 課題番号
- 25027A
- 研究グループ
- 東京大学大学院農学生命科学研究科
- 研究総括者
- 東京大学 丸山 潤一
- 研究タイプ
- Bタイプ
- 研究期間
- 平成25年~27年(3年間)
- PDF版
- 麹菌の不和合性機構の解明と有性生殖の発見による交配育種法の開発(PDF : 1857.1KB)
1 研究の背景・目的・目標
麹菌は、日本の伝統的な醸造で日本酒・醤油・味噌などの製造に用いられているだけではなく、組換えによる有用タンパク質生産にも利用されている、産業的に重要な微生物である。しかし、麹菌では有性世代が発見されていないため、複数の株の優良な形質を1つの株に集約する交配育種が適用できないのが課題である。本研究では、株間での菌糸融合体が存在できない不和合性を解消し、さらに有性生殖の誘導を行うことにより、麹菌において交配育種法を開発することを最終目標とした。
2 研究の内容・主要な成果
(1) BiFC法によって融合した細胞を可視化して、菌糸融合能を評価する手法を確立した。
(2) 麹菌において初めて、菌糸融合体が存在することのできない不和合性の現象を明らかにし、その原因となる遺伝子の候補を比較ゲノム解析により絞り込んだ。
(3) ゲノム編集技術を利用して、有性生殖に必要な菌核をまったく形成することのできなかった麹菌実用株で、菌核様構造の形成に成功した。
(4) 菌核形成および有性生殖を制御する遺伝子を操作することで、麹菌で初めて有性生殖器官の形成に成功した。
公表した主な特許・論文
(1) Tsukasaki, W. et al. Establishment of a new method to quantitatively evaluate hyphal fusion ability in Aspergillus oryzae. Biosci. Biotechnol. Biochem., 78, 1254-62 (2014).
(2) Wada, R. et al. Efficient formation of heterokaryotic sclerotia in the filamentous fungus Aspergillus oryzae. Appl. Microbiol. Biotechnol., 98, 325-334 (2014).
(3) Katayama, Y. et al. Development of a genome editing technique using the CRISPR/Cas9 system in the industrial filamentous fungus Aspergillus oryzae. Biotechnol. Lett., 38, 637-642 (2016).
3 今後の展開方向、見込まれる波及効果
(1) ゲノム編集技術により、麹菌実用株における不和合性の解消、有性生殖の誘導を目的とした遺伝子操作を効率的に行うことが可能となる。
(2) 不和合性の機構解明とその不活性化により、麹菌の株間の菌糸融合が可能になることで、有性生殖の律速段階が解決される。
(3) 麹菌実用株において、有性生殖器官の形成に必要な菌核形成を誘導できるようになり、交配育種法が開発される。
4 開発した技術・成果が活用されることによる国民生活への貢献
(1) 本研究で得られた知見・技術を利用して交配育種法が開発されると、醸造食品産業において従来にない高機能麹菌の作出が可能となり、醸造食品の高付加価値化に利用することができる。
(2) 異種タンパク質高生産株を交配することにより、“超”高生産麹菌の作出が可能となり、環境・エネルギー・医療それぞれの分野で必要なタンパク質を大量に生産し、安価に供給することが期待される。
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