トランス脂肪酸問題の質的解決に向けたトランス脂肪酸異性体ごとの代謝性評価
- 課題番号
- 27009A
- 研究グループ
- 東京海洋大学、佐賀大学、
月島食品工業株式会社 - 研究総括者
- 東京海洋大学 後藤 直宏
- 研究タイプ
- 一般型 Aタイプ
- 研究期間
- 平成27年~29年(3年間)
- PDF版
- トランス脂肪酸問題の質的解決に向けたトランス脂肪酸異性体ごとの代謝性評価(PDF : 956.5KB)
1 研究の目的・終了時の達成目標
心臓病の発症リスクを高めると言われているトランス脂肪酸(TFA)は、炭素数、二重結合数、さらに二重結合位置が異なる多種の異性体から構成される脂肪酸の総称であり、多くの食品に含まれている。そこで、既往の知見のない「トランス脂肪酸の種類ごとの健康影響」を把握することを目的とする。そのために牛肉、牛乳、油脂加工食品など食品中のTFA異性体含有量を測定するとともに、動物試験等により生体へ害を与える可能性のあるTFA異性体を特定する。
2 研究の主要な成果
(1)食品中に含まれるトランス型オクタデセン酸(trans-18時01分)を構成する13種類の位置異性体合成手法を確立した。合成した各種位置異性体を用い、細胞試験、動物試験、食品中のtrans-18時01分の各位置異性体の濃度の分析を行った。
(2) 日本国内で流通している250点の食品(うち169点が加工食品、81点が反芻動物由来食品(肉や乳など))のTFA異性体濃度とtrans-18時01分については各位置異性体の濃度を明らかにした。
この内容はデータベースとして公表する予定。
(3)HepG2細胞に各種trans-18時01分位置異性体を添加して評価した結果、trans-5-18時01分(カルボキシル基から5番目の炭素が二重結合)がApo Bの分泌量を増加させる性質を有することを明らかにした。
(4)4週齢ハムスターにtrans-5-18時01分、trans-9-18時01分(部分水素添加油の主異性体)、trans-11-18時01分(反芻動物由来の主異性体)を2エネルギー%で4週間投与(自由摂取)し、その後の血中LDL/HDL比を比較した。結果、各trans-18時01分位置異性体投与群と対照群(オレイン酸投与群)との間で有意差のある影響は確認されなかった。
公表した主な特許・論文
(1) K. Nagao, et al. Comparison of the effect on apolipoprotein A1 and B secretion among trans fatty acid isomers using HepG2 cell. J. Oleo Sci. 66, 1175-1181 (2017).
(2) N. Gotoh, et al. Study on the trans fatty acid formation in oil by heating using model compounds. J. Oleo Sci. 67, 273-281 (2018).
3 今後の展開方向
(1) 多価不飽和TFAの血中LDL/HDL比への影響を精査し、この中から血中LDL/HDL比を上昇させるTFA異性体を見つけ出すことを目指す。
(2) 血中LDL/HDL比へ影響するTFA異性体の食品中濃度を明らかにすることを目指す。
【今後の開発目標】
(1) 2年後(2019年度)は、多価不飽和TFA異性体の合成を実施。
(2) 5年後(2022年度)は、血中LDL/HDL比へ影響する多価不飽和TFA異性体探索を細胞・動物試験で実施。
(3) 最終的には、血中LDL/HDL比へ影響するTFA異性体の食品中の濃度を明らかにする。
4 開発した技術シーズ・知見の実用化により見込まれる波及効果及び国民生活への貢献
本研究より、食品に含まれるtrans-18時01分が血中LDL/HDL比上昇へ与える影響は確認されなかった。食品からの日本人の平均的なTFA摂取量は既にWHOが設定した目標値(1エネルギー%)より低いが、異性体ごとの生体への影響が明らかになれば、食品を通じたTFAの摂取による健康影響のより詳細な推定に寄与することが期待される。
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東京海洋大学
後藤 直宏
TEL 03-5463-0714
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