野生動物個体数調節のための雄性避妊手法の開発
- 課題番号
- 25026A
- 研究グループ
- 農業生物資源研究所
農研機構畜産草地研究所 - 研究総括者
- 農業生物資源研究所 野口 純子
- 研究タイプ
- Bタイプ
- 研究期間
- 平成25年~27年(3年間)
- PDF版
- 野生動物個体数調節のための雄性避妊手法の開発(PDF : 998.9KB)
1 研究の背景・目的・目標
シカが増えすぎて問題をおこしています(畑を荒らす、森林の下草を食べ尽くしてしまう、樹皮を食べられて木が枯れてしまうなど)。野生のシカの繁殖能力は旺盛で、交尾期後の雌の90%以上が妊娠していたという報告があります。推定自然増加率は15%ですから、一旦捕獲して頭数を減らしても、5年後には2倍に増えることが予想されます。どうすれば適正な生息密度を維持することができるか、その方法として「生ませないための不妊化ワクチン」の開発を目指します。
2 研究の内容・主要な成果
海外では頭数が増えすぎないよう、雌シカが妊娠できなくなる注射薬(正確には麻酔銃のようなもの)を使用している地域があります。この薬は日本では使用できない成分(免疫賦活化剤)を含みます。また、雄を不妊にする薬はまだ開発されていません。そこで、日本国内で使用可能で、雌雄両方のシカを不妊とするワクチンの開発を目指し研究を行いました。
雄を不妊にする方法として去勢があります。去勢した雄は雌に無関心になります。雄シカは交尾期にハーレムを形成するので、去勢雄を作出しても残った正常な雄が雌と交配し、雌の妊娠率は低下しません。ですから、「交配するが雌を妊娠させられない雄」にすることが重要です。
(1)雄ラットにラットの精子を接種して自己免疫性精巣炎を誘起し、「交配するが雌を妊娠させられない雄」にできることを明らかにしました。
(2)同様にヤギにヤギの精子を接種し、自己免疫性精巣炎を誘起できることを確認しました。
(3)日本でも使用可能な免疫賦活化剤を開発しました。
(4)実用化の課題である、単回接種および異種精子を用いた自己免疫性精巣炎の誘起に成功しました。
3 今後の展開方向、見込まれる波及効果
(1)ラットおよびヤギで有効性が認められた精子免疫による自己免疫性精巣炎の誘起は、シカでも有効であると考えられます。そこで、精子由来抗原物質を同定し、入手が容易なウシ精子利用して雄シカを「交配するが雌を妊娠させられない雄」とするための手法を開発します。
(2)雄を不妊化する抗原と雌を不妊化する抗原(透明帯蛋白)を混合した「生ませないための不妊化ワクチン」の開発を目指します。
(3)接種されたシカの健康およびシカ肉の安全性を確認し、シカにも人にも安全なワクチンとします。
4 開発した技術・成果が活用されることによる国民生活への貢献
(1)シカによる被害を減少させるため実施する個体数調節の新たな手法となる。
(2)提案する手法は捕殺と異なりと体を処理する必要がなく、高齢の狩猟者でも対応できる。また、捕殺が困難な地域の個体数管理に貢献する可能性がある。
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農研機構
生物機能利用研究部門
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