昆虫嗅覚受容体を利用したカビ臭検出センサの開発
- 課題番号
- 25021A
- 研究グループ
- 東京大学先端科学技術研究センター、東京工業大学精密工学研究所、豊橋技術科学大学エレクトロニクス先端融合研究所
- 研究総括者
- 東京大学先端科学技術研究センター 神崎 亮平
- 研究タイプ
- Aタイプ
- 研究期間
- 平成25年~27年(3年間)
- PDF版
- 昆虫嗅覚受容体を利用したカビ臭検出センサの開発(PDF : 936.3KB)
1 研究の背景・目的・目標
微量の化学物質を検出する技術は、生活の安全・安心、質の向上のためにきわめて重要である。食品・農林水産業界では、カビによる食品や飲料の汚染により発生する匂い物質の検出は品質管理の上で必須である。これまでに、工学技術に基づく匂いセンサは実用化されているが、感度や選択性を兼ね備え簡便にカビ臭を検出できるセンサの開発には至っていない。本研究では、昆虫の嗅覚受容体を発現するSf21細胞をセンサ素子として、カビ臭をppbレベルの高感度で検出可能な匂いセンサシステムの開発を目標とした。
2 研究の内容・主要な成果
(1)昆虫の嗅覚受容体を発現させた培養細胞が、食品や飲料由来の匂い(背景臭)が存在する中でも、カビ臭を100nM(溶液換算;ジオスミン約18ppb)の検出限界で検出できる匂い検出素子を開発した。
(2)昆虫の嗅覚受容体を発現させた培養細胞から、多様な匂い物質に対する応答を網羅的に取得する手法を確立し、匂い物質-嗅覚受容体の関係を集約したデータベース構築の基盤技術を確立した。
(3)複数種類の培養細胞を導入し蛍光計測が可能な計測チャンバを設計・製作し、異なるカビ臭を検出できる培養細胞を導入することで、複数種類の匂い物質を蛍光のパターンとして区別できることを明らかにした。
(4)作出した細胞を計測チャンバと蛍光計測系と組み合わせて匂いセンサシステムを構築し、このシステムのジオスミン検出限界が100nMであり、ジオスミン濃度に依存した細胞応答が検出できることを実証した。
公表した主な特許・論文
(1)Mujiono, T. et al. Lock-in measurement technique in fluorescent instrumentation system for cell-based odor sensor. 電気学会論文誌E Accepted (2016)
(2)Mitsuno, H. et al. Novel cell-based odorant sensor elements based on insect odorant receptors. Biosensors and Bioelectronics 65, 287-294 (2015)
3 今後の展開方向、見込まれる波及効果
(1)匂い検出素子の高感度化や蛍光計測系の改良により、カビ臭発生の初期段階の食品や飲料、また飲料水で要求される感度で、カビ臭を検出できる匂いセンサシステムの開発が期待できる。
(2)気体の溶解技術と組み合わせることで、食品や飲料のカビ臭を非接触で検出できる匂いセンサシステムの開発が期待できる。
(3)目的に匂い物質を検出できる嗅覚受容体に交換することにより、カビ臭だけではなく、食品の劣化や腐敗臭といった異臭や有害物質を含む様々な用途に利用可能な匂いセンサの開発が可能になる。
4 開発した技術・成果が活用されることによる国民生活への貢献
(1)現場に導入できる匂いセンサシステムへと改良し、食品加工ラインや取水口に設置することで、製造段階でカビ臭の混入の検出が可能となり、商品回収等にかかる費用の低減に貢献できる。
(2)カビ臭検査システムを導入し、消費者に届く前に製造者にカビ臭情報を提供することで、常に安全で安心な食品を提供することが可能となる。

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