畑作の省力化に資するバイオプラスチック製農業資材分解酵素の製造技術と利用技術の開発
- 課題番号
- 25017A
- 研究グループ
- 国立研究開発法人 農業環境技術研究所
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 - 研究総括者
- 農業環境技術研究所 北本 宏子
- 研究タイプ
- Aタイプ
- 研究期間
- 平成25年~27年(3年間)
- PDF版
- 畑作の省力化に資するバイオプラスチック製農業資材分解酵素の製造技術と利用技術の開発(PDF : 1069.5KB)
1 研究の背景・目的・目標
生分解性農業用マルチ(生プラマルチ)は、使用後に畑土に鋤込めば分解されるため、回収する必要が無く、省力化できる。しかし、生プラマルチの分解速度は、栽培環境で異なるので、分解が遅い場合は、鋤込むことができない。そこで、使用済み生プラマルチを酵素処理で急速に分解し、鋤込みできるようにする、今までに無い技術の開発を目的とした。生プラマルチを分解できる酵素を見いだし、酵素の生産効率を高めるとともに、畑に張った市販生プラマルチの分解促効果を評価する。
2 研究の内容・主要な成果
(1)植物から生プラ分解力を持つ微生物を分離し、それらの生プラ分解酵素を精製し、特性を明らかにした。
(2)イネ由来の酵母シュードザイマ・アンタークティカは、キシロース存在下生プラ分解酵素PaEを多く分泌する。
この特性とシュードザイマ・アンタークティカのゲノム情報を利用して、72時間培養で57 U/mlのPaEを得た。
(3)オオムギ由来の糸状菌B47-9株は、生プラの一種であるポリブチレンサクシネート-co-アジペートを与えると、生プラ分解酵素PCLEを分泌する。この特性を利用して、従来比20倍の効率でPCLEを生産した。
(4)圃場に張った市販生プラマルチにPCLEを含む培養ろ液を処理する際に、カルボキシメチルセルロースを併用することで、翌日には生プラマルチが鋤込みできる程度まで分解された。
公表した主な特許・論文
(1) 特願 2014-145767 生分解性プラスチックを効率良く分解する方法 出願人(農環研)
(2) 特願2015-224179 生分解性プラスチック製マルチフィルムを分解する方法 出願人(産総研、農環研)
(3) Suzuki, K., et al., Purification, characterization, and cloning of the gene for a biodegradable plastic-degrading
enzyme from Paraphoma-related fungal strain B47-9. Appl. Microbiol. Biotechnol. 98,4457-4465 (2014).
3 今後の展開方向、見込まれる波及効果
(1)従来のポリエチレン製マルチ比べて、生プラマルチと分解酵素を組み合わせた場合、総コスト*を安く抑えることを目標に、酵母の酵素PaEの量産化や安定生産と酵素処理による分解促進技術を開発する。
(*トウモロコシ、キャベツ、サツマイモで10aあたり、従来のマルチは、回収作業に平均1.9万円必要。回収が不要な生プラマルチでは、マルチ使用総コストは、平均7000円安くなる(農業用生分解性資材普及会調べ)。
(2)生プラ分解酵素を処理した生プラマルチは、畑に埋めた後の分解が早く、畑土環境が短時間で回復される効果が期待される。これを確認し、生プラを、便利で持続的な農業技術として普及させることを目指す。
4 開発した技術・成果が活用されることによる国民生活への貢献
(1)使用済み生プラマルチを酵素で速やかに分解し、収穫と同時に鋤込みを可能にして、収穫作業量を軽減。
(2)農作業が楽になり、農業経営の継続と新規参入が推進される。生プラと分解酵素の組み合わせは、育苗ポットや網等の農業資材、食品包装材や輸送用梱包材、生ゴミリサイクル等、様々な用途に利用できる。
(3)日本近郊の海洋に特に多く浮遊するマイクロプラスチックは、有害物質を吸着したまま魚が取り込む恐れがある。本技術と併用し、便利になった生プラが、分解しないプラスチックの一部を代替し、環境汚染を軽減。
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