農耕地からの一酸化二窒素ガス発生を削減し作物生産性を向上する微生物資材の開発
- 課題番号
- 27004C
- 研究グループ
- 東京大学、東北大学、新潟県農業総合研究所、
株式会社ロム、十勝農業協同組合連合会 - 研究総括者
- 東京大学大学院農学生命科学研究科 妹尾 啓史
- 研究タイプ
- 現場ニーズ対応型 Aタイプ
- 研究期間
- 平成27年~29年(3年間)
- PDF版
- 農耕地からの一酸化二窒素ガス発生を削減し作物生産性を向上する微生物資材の開発(PDF : 1115.5KB)
1 研究の目的・終了時達成目標
農耕地は温室効果ガスN2Oの発生源の一つである。本研究では土壌微生物のN2O 還元能力を利用し、N2O 発生削減と作物生産性向上の両効果を有する画期的な微生物資材の実用技術を開発することを目的とする。このため、N2O除去能と植物生育促進能を併せ持つ脱窒菌を用いた微生物資材ならびにN2O還元能を強化したダイズ根粒菌を用いた微生物資材を作製して試験圃場での性能評価、農家圃場での実証試験を行い、N2O発生を50%削減し、作物収量を10%増加することを目標とする。
2 研究の主要な成果
(1) N2O除去・植物生育促進微生物の土壌や成型有機質肥料からのN2O発生削減効果ならびに種々の牧草や野菜に対する生育促進効果を試験圃場と農家圃場において確認した。
(2) 樹皮などの植物系繊維がN2O除去・植物生育促進微生物の資材化における良好な担体となるだけでなく、N2O生成微生物を減少させN2O発生削減効果を示すことを見出した。
(3) 根粒菌圃場ループ育種により得られたX110接種でN2O削減率とダイズ増収率は42%, 9.1%となり、当初目標をほぼ達成した。
(4) 根粒菌nasS変異によるN2O還元活性上昇機構を解明し、X110構成株のヘアピン削除によるnos強化株の作出に成功した。
公表した主な特許・品種・論文
(1) 特願 2017-175439 農耕地用一酸化二窒素低減材(新潟県、東京大学、株式会社ロム)
(2) Gao, N. et al. Nitrous oxide (N2O)-reducing denitrifier-inoculated organic fertilizer mitigates N2O emission from agricultural soils. Biol. Fertil. Soils 53, 885-898 (2017)
(3) Sánchez C. et al. Regulation of nitrous oxide reductase genes by NasT-mediated transcription antitermination in Bradyrhizobium diazoefficiens. Environ. Microbiol. Rep. 9, 389-396 (2017)
3 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開
(1) N2O除去・植物生育促進微生物ならびにその担体としての植物系繊維を用いた微生物資材の試作品を作製し、N2O削減と作物増収効果を現場圃場において実証した。特許出願済み、商品化を予定。
(2) 圃場ループ育種によりN2O削減・増収効果のあるダイズ根粒菌X110集団を獲得した。最適な製造システムの検討により菌株特許出願と商品化を予定。
[今後の開発・普及目標]
(1) 2年後(2019年度)は、資材の有効性の普及、製造・販売方法の確立、J-Creditの登録完了予定。
(2) 5年後(2022年度)は、資材のブランド化を図り、普及拡大を行う。
(3) 最終的には、日本全国の環境に対応した微生物資材を普及させる。
4 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献
(1) 野菜、牧草、ダイズ生産において微生物資材の利用により約28億円規模の収量増加が見込まれる。また、温室効果ガスの排出削減量をJ-Creditとして販売することで、北海道の牧草地・ダイズ畑で年間10億円規模、全国の農耕地で年間80億円規模の経済効果が得られる。
(2) 温室効果・オゾン層破壊ガスであるN2Oの発生を削減でき、国民の関心事であり危惧されている地球環境の悪化防止に貢献する。また、環境と調和した農業生産を推進して国民に良質な農産物を提供する。
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