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農林水産技術会議

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国内における研究開発事例を紹介します!(国立大学法人 大阪大学 大学院 工学研究科 生物工学専攻 村中研究室 編)

代謝を制御して新しい価値を生む~ジャガイモの天然毒素低減研究~

巻末参考資料

<巻末参考1>RNA干渉(RNAi)とは

 DNAを構成する塩基にはアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類があり、AとT、GとCが互いに結合するという性質があります。この性質を相補性と言い、AとT、GとCは互いに相補的である言います。RNAを構成する4種類の塩基は、チミン(T)の代わりにウラシル(U)になっているため、AとU、GとCが互いに相補的ということになります。
 遺伝子の塩基配列は、DNAからmRNAに写し取られて、それを元にタンパク質が作られますが、ある遺伝子のmRNAと相補的なRNAが結合して二本鎖RNAが作られると、その遺伝子の発現が抑制されるという現象があります。これをRNA干渉(RNA interfering: RNAi)と言います。これを利用することにより、細胞内の特定の遺伝子の発現を抑えることができます。
 この現象を発見した2人の研究者は、2006年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

<巻末参考2>TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)とCRISPR/Cas9の違い

 TALENは、CRISPR/Cas9と違ってタンパク質だけでできています((参考)図1)。
 そのため、標的となるDNAの塩基配列に結合できるようにするには緻密な設計が必要で、CRISPR/Cas9より使いこなすのが難しいと言われています。
 他にも、”はさみ”の役目を果たす酵素FokIがペアにならないと働かないとか、ペアの間に丁度よい距離(スペーサーと呼ぶ)が空いていないといけないといった難しさがあります。
 一方で、こうした難しさがTALENの結合と切断の正確さにつながっていて、目的遺伝子とは異なるゲノム配列に働きかけてしまうこと(オフターゲット)が非常に起こりにくいと言われています。

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<巻末参考3>四倍体のジャガイモの育種はなぜ大変か

 遺伝子は染色体上の位置が決まっていて、この“位置”を「遺伝子座」と言います。
 通常、一つの細胞の中には染色体のセットが複数(例えば、ヒトは2セット、ジャガイモの多くは4セット)ありますが、染色体のセットが複数あるときに、同じ「遺伝子座」にありながら塩基配列が違う配列たちを「対立遺伝子」と呼びます。配列が違うと言っても全然働きが違う遺伝子ということではなく、同じ働きを持つ遺伝子だけどちょっと違うというイメージです。
 例えば、ABO血液型は3種類の対立遺伝子があります。ヒトは二倍体なので、そのうちどれか二つを誰もが持っていて、組み合わせによって4種類の血液型のいずれかになります。対立遺伝子の数は、染色体のセット数よりもたくさんありますが、一人のヒトが持つ対立遺伝子の数は最大二つで、同じものを持っている場合もあります。
 母親と父親は、それぞれが持つ染色体の半分を子どもに引き継がせます。二倍体であるヒトは、両親から一つずつ、染色体のセットを受け継ぎます。その際、(参考)図2にあるように、母親が2種類の対立遺伝子を持ち、父親はまた別の対立遺伝子を持っている場合、染色体の組み合わせは2×2=4通りです。組み合わせの問題なので、母親が対立遺伝子を持っていなかったり、両親間で対立遺伝子がなかったりすると、組み合わせの数は減ります。

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 次に、四倍体であるジャガイモの場合の話をします。
 ジャガイモにも、原種など二倍体のものはありますが、食用として重用されている品種のほとんどは四倍体です。メークインも男爵も四倍体です。四倍体になるとバイオマス、つまり食べられる部分が大きくなるため、育種の過程で四倍体が選ばれてきました。面倒なことに、四倍体のジャガイモが持っている染色体のセットは、互いに配列が異なっています。つまり、対立遺伝子がほとんどの場合4種類あります。
 母親と父親が、それぞれ4種類ずつ対立遺伝子を持っているとすると、遺伝のパターンは(参考)図3のようになります。母親側が子どもに引き継がせるのは4種類の対立遺伝子のうち二つで、組み合わせ方は6種類になります。父親側も同様なので、一回の交配で36通りの組み合わせができてしまいます。
 一つの遺伝子座ごとにこれだけの種類の組み合わせができてしまうので、交配と選抜による育種は非効率的という言葉では片付けられないほど大変です。

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参考文献


※1 じゃがいもによる食中毒を予防するためにできること
※2 aff(あふ) バックナンバー 2017年11月号、特集 じゃがいも さつまいも(1)
食品成分データベース
※3 FAOSTAT
FAOSTATのリンクに飛び、Yieldで検索。「Compare Data」のボタンを押し、Productionを選んだ後、期間、国、作物名を選ぶと、作物ごとの年間収量の変化データが得られる。これを作物間で比べると、コメやコムギよりも、ジャガイモのほうが単位面積当たりの収量が多いことがわかる(コメやコムギの約5倍)。
※4 梅基 直行, Kagaku to Seibutsu 53(12): 843-849 (2015)
※5 Shuhei Yasumoto, et al., Efficient genome engineering using Platinum TALEN in potato, Plant Biotechnology vol.36, p.167–173, 2019.
※6 RNA干渉(RNA interfering: RNAi)
※7 TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)
Nature Reviews Molecular Cell Biology vol.14, p.49–55
※8 健やかな生活を支える林業のために~無花粉スギから広がる新しい林業~
※9 Shuhei Yasumoto, et. al., Targeted genome editing in tetraploid potato through transient TALEN expression by Agrobacterium infection, Plant Biotechnology vol.37, p.205–211, 2020.
※10 一塩基編集(base-editing)
※番外 バイオステーション
ゲノムやDNAなど、基本となる専門用語の解説情報がある。
              大阪大学大学院工学研究科 生物工学専攻 細胞工学領域(村中研究室)