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農林水産技術会議

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2022年農林水産技術こども新聞

エリートツリーが森林を救う!

農業×SDGs 目指せ!温室効果ガス削減

林業では、山に苗木を植え、育て、伐って、収穫し、次の森林を育成するために再び苗木を植えます。現在は、成長が早くて質の良い「エリートツリー」の開発が進んでいます。成長が早いと、林業や地球環境にとってどのような利点があるのでしょうか。木の品種改良の研究者、栗田学さんに聞きました。

林業の課題解決に向けて開発された木

これまでの林業の課題について、栗田さんは次のように話します。「木を植えてから収穫するまでに50年程度かかっていました。
苗木がある程度大きくなるまでの間、周囲の草刈りをくり返し行う必要があり、手間もお金もかかります。長年育てた木を次の世代の人が収穫し、新たな苗木を植えて林業は続いていくのですが、担い手が減っていることも課題となっています」。
そこで成長が早く、質の良い「エリートツリー」の開発に向けた取り組みが40年ほど前から始まりました。

写真:森林総合研究所 林木育種センター 栗田学さん
研究のために育てているエリートツリー(植えてから10年)の林に立つ栗田学さん(森林総合研究所 林木育種センター)

エリートツリーには、家や家具などの材料として使われるスギ、カラマツ、ヒノキなどがあり、木材に適したまっすぐで病気や虫の害がみられない健全な木が選ばれています。
「エリートツリーの大きな特徴は、成長が早いところ。うまく育てば、植えてから30年程度で収穫できる可能性があります。おかげで苗木を植えた人が自分の代で収穫でき、今まで以上にやりがいもあることでしょう」と栗田さんは話します。

森林の育成の説明図:苗木を植える→育てる→伐る→収穫する→使う

エリートツリーの広がりと未来への取り組み

環境への影響について、「木は成長と共に温室効果ガスのひとつである二酸化炭素を吸収しますが、成長の早いエリートツリーは、短期間でより多くの二酸化炭素を吸収できると期待されます」と栗田さん。また、「私たち林木育種センターが品種改良したエリートツリーは、都道府県に配布され、そこで作られた種子が生産者の手に渡り、今では全国に普及しつつあります」とのこと。
エリートツリーは「精英樹」と呼ばれる優れた樹木を交配した中から選りすぐられた子世代で、現在は「第二世代」です。栗田さんたちは木材を安定的に生産し、豊かな森林づくりの可能性を広げるために、さらに優れた「第三世代」のエリートツリーをつくる取り組みも進めています。

写真:苗木を植えて4年後のエリートツリー(左、高さ6メートル)と従来種(右、高さ3メートル)。いずれもスギ 写真提供/国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センター

研究者への質問

栗田学さんに聞きました!

写真:栗田学さん

【Q】研究者になったきっかけは何ですか
【A】小学生のとき、先生に着眼点が良いとほめられたのがきっかけで理科が好きになりました。
その後、生物、特に植物や森林への興味が強くなり、大学では分子生物学を研究し、研究者になりました。
【Q】研究でおもしろかったことはありますか
【A】目的に対して自由な発想でやってみることができるのがおもしろいです。試しにやってみたことが成功して、新しい技術が生まれたこともあります。

環境にやさしい農地づくりから消費まで

農業を行うと、作業に使う機械や施設、ごみの処分などで温室効果ガスが排出されます。
そこで、ごみや二酸化炭素の排出量を減らす農業が進められています。また、環境に配慮した方法で作られた農産物を買うことで、消費者である私たちも環境に良い取り組みに参加することができます。

写真:一面に広がるレタス畑の様子
生分解性プラスチックの活用例
生分解性プラスチックのマルチフィルムを使用したレタス畑
写真は農研機構提供

写真:トラクタで畑を進む風景
バイオ炭の活用例
バイオ炭を畑の土にまぜているところ(北総クルベジ)

土にも地球にもやさしい「バイオ炭」

バイオ炭が農業にも環境にも良い効果があることを調査、研究している農研機構農業環境研究部門の岸本文紅さんにお話を聞きました。

バイオ炭が温室効果ガスを削減

岸本さんによると「バイオ炭とは、木などを酸素の少ない状態にし、350度以上の温度で加熱してできた炭です。バイオ炭を土に混ぜると水や空気の通りが良くなり、土を元気に保つことができるため、昔から農業に利用されてきました」とのこと。
バイオ炭の原料は、森林の整備のために伐り出された「間伐材」や持ち主がいなくなり放置された竹林の「竹」、稲の「もみがら」など、そのままではごみとなるもの。これらを燃やしたり、そのまま土に埋めて捨てたりするかわりに、バイオ炭にして活用すれば温室効果ガスのひとつである二酸化炭素の排出量を減らすことができます。

開放型炭化器で竹を加熱してバイオ炭をつくるところ(いすみ竹炭研究会)写真:バイオ炭をつくる様子
荒れた竹林を整備したときに切った竹を使ったバイオ炭。ごみを有効活用するという点でも環境に良い

年間5000トンの二酸化炭素を減らす

岸本さんは「環境に良いと証明されていることは大切です。バイオ炭を土に混ぜることで二酸化炭素の排出をおさえるという方法は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のガイドラインにもあり、科学的にも国際的にも効果が認められている方法です」と話します。
また、「私たちはバイオ炭を農業に利用することで、どのくらい二酸化炭素の排出を減らすことができるかを調べています。現在の日本でのバイオ炭による二酸化炭素の排出削減量は年間5000トンですが、バイオ炭をもっと有効活用できればその1000倍は減らすことができると見積もっています」とも。

⽣きている⽊はCO2を吸収し、その後バイオ炭にするとCO2がでない概要図:切ったあと、燃やすと吸収したCO2が再び出る。また、⼟に埋めると微⽣物が分解して吸収したCO2が再び出る。⼀⽅、バイオ炭は酸⽋状態で作るので吸収したCO2の⼀部が炭素として残る。炭素同⼠の結びつきが強いため分解されにくく、CO2が出ない

環境に良い取り組みを支援しよう

荒れた竹林をきれいにし、その竹でバイオ炭を作り、近くの畑で利用すれば二酸化炭素の排出をおさえながら、おいしい野菜を作ることができます。その畑で育った農作物を買えば、バイオ炭を利用した農業を支援することになるので、みなさんも環境に良い取り組みに参加することができます。
岸本さんは「研究者として、科学的な根拠のある“環境に良いこと”をみなさんにわかりやすく伝えること、そしてバイオ炭の取り組みがあたりまえになることを目標としています」と語りました。

研究者への質問

岸本文紅さんに聞きました!

写真:岸本文紅さん
【Q】研究者になってよかったことは?
【A】調査でいろいろな国に行き、たくさんの人と会いました。内モンゴル草原や北極の自然に感動したこともあります。研究の道を選んだからできた、幸せな経験です。
【Q】やりがいを感じるのはどんなとき?
【A】研究そのもののおもしろさもありますが、バイオ炭や生分解性プラスチックといった、社会とつながっていて直接役立つテーマを扱っていることにやりがいを感じます。

※岸本さんは後述で紹介している北本さんとともに、生分解性プラスチックの研究にも携わっています。

ごみを減らそう! 生分解性プラスチック

農業に使われるプラスチック製品は、片づけに手間がかかる、自然を汚染してしまうことがあるといった問題を抱えています。そこで土に埋めると分解される「生分解性プラスチック」の開発が進んでいます。農研機構農業環境研究部門の北本宏子さんに聞きました。

土の中で消える!? 生分解性プラスチック

私たちのくらしに欠かせないものになっているプラスチック。北本さんは「農業においても、野菜を育てるポットやネット、収穫した野菜を入れて運ぶコンテナなど、さまざまな場所でプラスチック製品が活用されています。一方で、破片が風雨に飛ばされて川を流れ、海へ運ばれ、汚染のもととなってしまうことがあります」と話します。
また、プラスチックごみの増加により、処理が追い付かないという社会問題も起こりました。
そこで開発されたのが「生分解性プラスチック」です。これまでのプラスチックと同じような使い方ができるうえに、使い終わったら土に埋めれば、最終的には、水と二酸化炭素まで分解されます。

写真:農研機構の北本宏子さん
農研機構の北本宏子さん
酵素を生産する微生物を培養している様子
写真は農研機構提供

生分解性プラスチックの分解のしくみの概要図
生分解性プラスチックは生物がエサとして食べることができる素材をつなげて作られている。農地では、太陽の光や水、温度、土にすむ微生物の酵素が働きかけることで、つながりが切られて微生物に食べられ、水と二酸化炭素に分解される

分解のスピードをコントロールする研究

現在、生分解性プラスチックは、土の表面をカバーするマルチフィルムとしての利用が増えています。マルチフィルムは雑草や乾燥、病気から農作物を守る働きをしますが、使用後に汚れてかさばるフィルムを回収するのは重労働であること、土のついたプラスチックごみの処理で環境への負荷がかかることが問題でした。
分解できるようになると、手間もごみも減らすことができます。農家が使いやすいマルチフィルムは、野菜を育てている間は、こわれずに土をカバーし、収穫後は早く分解してくれるものです。そうすれば、次の野菜を育てる時にじゃまになりません。
北本さんたちは酵素を使って分解のスピードをコントロールする研究をしています。「酵素とは、みなさんがごはんを食べ、消化するときにも使われています。分解する物、温度などの環境条件の違いで異なる酵素が働きます。私たちは生分解性プラスチックをよく分解する酵素を見つけました。まだ実際には使われていないのですが、分解したいタイミングで使ってもらえるような酵素剤を開発しています」と北本さん。

写真:カボチャ畑の様子
生分解性プラスチックのマルチフィルムを使用中のカボチャ畑

写真:トラクタですき込みをしながら畑を進んでいる作業風景
収穫後、畑に残ったマルチフィルムは土にすき込んで埋め、土の中で完全に分解される

分解される生分解性プラスチックの1週間ごとの様子
生分解性プラスチックが土の中でだんだんと分解される様子

また、「今後は農業だけでなく、生ごみを入れる袋や日用品にも生分解性プラスチックが使われるようになるでしょう。利用が広がれば、地球に蓄積するプラスチックごみの量を減らすことができます。そのときには分解する酵素剤の種類も増えていて、組み合わせて使えたらいいですね」と未来について語りました。

イラスト:考えられている生分解性プラスチックの使いみち 使い捨てのスプーン、フォーム 生ごみの袋 ホテルの洗面所にあるシャンプーや歯ブラシ

研究者への質問

北本宏子さんに聞きました!

写真:北本宏子さん
【Q】研究のどんなところがおもしろいですか
【A】一人で研究していると思いつかないことも、何人かで取り組むと新しい発見や展開が生まれることがあります。そんなとき、おもしろいなと感じます。
【Q】小学生にもできる、温室効果ガス削減の取り組みはありますか
【A】使い終わった後のことを考えて物を選ぶことと、リサイクルしやすい捨て方を意識することです。

農研機構

農研機構は農業、畜産、食品分野の国内最大の研究機関です。茨城県つくば市に本部があり、全国に拠点があります。

写真:農研機構の建物
写真は農研機構提供

SDGsを実現する消費

世界が抱えるさまざまな問題を解決し、より良い未来をつくるために国連サミットで定められたSDGs(持続可能な開発目標)。この目標を「買い物」で実現に近づける方法があります。みなさんの日々の買い物が、世界を変えていく!?

野菜を見た目で選ばなければ食品ロスを減らせる内容の漫画

見た目で選ばないと良いこと

農家は「見た目の良い」果物や野菜を作るため、農薬を使用するなど手間ひまをかけています。たとえば色や形が悪く、見た目が良くないと農家の人が出荷しても売れないことがありますし、店に出しても選ばれません。でも、それが環境に良い作られ方をした野菜や果物だったらどうでしょうか。
見た目を気にせず環境に良いものを選ぶ人が増えると、見た目を良くするために行われる農家の人の手間を減らすことができるほか、食品ロスの解消にもつながります。


温室効果ガスの排出を減らす農業

農業は食料を得る重要な手段ですが、温室効果ガスの排出源でもあります。たとえばビニールハウスで暖房を使うときや捨てられた食品を燃やして処分するときは二酸化炭素が発生します。また化学肥料や農薬は、使い方次第では環境に悪い影響をおよぼす可能性があります。
こういった課題に気づき、環境に配慮して生産する農家があります。化学肥料や農薬をできるだけ減らすように工夫する、捨てられる木材などの木質バイオマスを燃料として使用して温室効果ガスを減らすといった取り組みです。

SDGs目標13気候変動に具体的な対策を、14海の豊かさを守ろう、15陸の豊かさを守ろうのアイコンと、環境に配慮して作られた野菜を売り場で選ぶ漫画

見た目重視より持続性重視

環境に配慮した栽培方法の果物や野菜は、傷や色、形がおとるものができやすい傾向にあります。見た目を重視すると、これらの商品は手に取ってもらいにくいですが、これからは環境に良いものを選び、持続可能な世界をつくることが求められます。
買う人(消費者)の行動の変化は、環境に配慮した栽培方法を行う農業を支援することになり、それは気候変動への対策や海と陸の豊かさを守ることにつながるので、「SDGsを実現する消費」と言えるでしょう。

実践! 持続性重視のお買い物

商品を選ぶときは、商品はもちろん、棚や店内も見てみよう。環境に配慮した栽培方法であることが書かれている場合があるよ。

実践 その1

パッケージの説明を読もう。

イラスト:「節減対象農薬当社比3割減」と表記された地元産こまつなのパッケージと、「環境に配慮した栽培」と表記された地元産◯◯ファームのトマトのパッケージ

実践 その2

店内のポスターや商品棚の掲示物などを見よう。

イラスト:「未来のために持続可能性に配慮し、◯◯◯◯◯◯システムで栽培した野菜です。」と記載された店内掲示物

実践 その3

認証マークや栽培についての説明を見よう。認証マークの意味や背景を調べてみよう。

有機JASマーク

お問合せ先

農林水産技術会議事務局研究企画課

担当者:中島、井戸原
代表:03-3502-8111(内線5847)
ダイヤルイン:03-3502-7407