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農林水産技術会議

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若手農林水産研究者表彰

平成27年度(第11回)業績概要

気候変動と魚種交替をつなぐ生物学的メカニズムに関する研究

受賞者 髙須賀 明典 氏 39歳

国立研究開発法人 水産総合研究センター 中央水産研究所資源管理研究センター 資源生態グループ グループ長

略歴

平成15年東京大学大学院農学生命科学研究科 博士後期課程修了。独立行政法人水産総合研究センター中央水産研究所 研究員、主任研究員を経て、平成26年より現職。平成23年より東京海洋大学客員准教授を兼務。博士 (農学)。

業績概要

主な業績

カタクチイワシとマイワシの間で優占魚種が入れ替わる「魚種交替」現象は気候変動に起因する。しかし、環境変動に魚がどのように反応して魚種交替に至るかという生物学的メカニズムには不明点が多い。「何故、同じ海洋条件下で、カタクチイワシは繁栄し、マイワシは崩壊し、そして入れ替わるのか?」「何故、異なる海洋生態系間で魚種交替は同期するのか?」独自の視点から魚種交替の生物学的メカニズムの解明に取り組んだ。

既存の有力説はカタクチイワシとマイワシで摂餌生態が異なることに着目した「栄養動態」仮説であった。これに対し、カタクチイワシとマイワシの間で初期生活史における成長速度最適水温が異なることに着目した「成長速度最適水温」仮説を提唱した。

様々な小型浮魚類 (カタクチイワシ、マイワシ、サバ類、マアジ) の最適水温値と資源高水準期、適水温範囲と資源変動規模が密接な関係にあることを示し、仮説を拡張した。

様々な環境要因 (水温、塩分、餌) に対するカタクチイワシとマイワシの産卵特性を魚種間および海洋生態系間 (黒潮海流域とカリフォルニア海流域) で比較した結果、水温および塩分に対する特性では、両海流域間でカタクチイワシとマイワシの魚種間関係が逆転していた。太平洋の東西で水温の高低の関係が逆であるにもかかわらず、魚種間関係が逆転しているため、魚種交替が同期するというシナリオを考案した。産卵現場の餌の量に対する特性では、産卵へのエネルギー割り当て戦略の違いも明らかになった。

同じカタクチイワシ属あるいはマイワシ属の魚種でも、海流域が異なれば生物特性は劇的に異なる。環境要因に対する生物特性は海流域ごとに魚種特有であることを示した。

背景

「何故、同じ海洋条件下で、カタクチイワシは繁栄し、マイワシは崩壊し、そして入れ替わるのか?」「何故、異なる海洋生態系間で魚種交替は同期するのか?」環境に対する魚の反応に着目して、これらの疑問をできる限り単純かつ直接的に説明する経路を探索した。



研究内容・成果

太平洋を越えた魚種交替メカニズムの解明と予測に向けて

太平洋を越えて魚種交替パターンが酷似する黒潮海流域とフンボルト海流域の比較に焦点を当て、ペルー海洋研究所との強固な共同研究体制の下、産卵生態、初期生態、資源生態、海洋環境、数理モデルを含む研究課題を推進中。他海域 (チリ、ブラジル、モロッコ) へも活動は波及。

太平洋を越えた魚種交替メカニズムを解明しつつ、海洋分野および数理モデル分野との連携によって、資源変動の将来予測につなげる。

主要論文・特許

?「Optimal growth temperature hypothesis: Why do anchovy flourish andsardine collapse or vice versa under the same ocean regime?」CanadianJournal of Fisheries and Aquatic Sciences, 64: 768?776(2007)

?「Contrasting spawning temperature optima: Why are anchovy and sardineregime shifts … ?」Progress in Oceanography, 77: 225-232(2008)

?「Occurrence and density of Pacific saury larvae and juveniles in relation toenvironmental factors …」Fisheries Oceanography, 23: 304-321(2014)

受賞評価のポイント

カタクチイワシとマイワシの間で優先魚種が入れ替わる「魚種交替」現象の生物学的メカニズムについて、既存の仮説では説明できない現象を説明する新たな仮説を提唱し、様々な魚種や環境要因について比較を行い、今後の資源変動予測に貢献しうる成果を上げられた点が高く評価された。

連絡先

国立研究開発法人 水産総合研究センター 中央水産研究所

住所:〒236-8648 神奈川県横浜市金沢区福浦 2-12-4

TEL:045-788-7639

お問合せ先

農林水産技術会議事務局研究調整課

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