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農林水産技術会議

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2020年農林水産技術こども新聞

暑さに負けないダリア 研究の花開く

ダリアといえば、みなさんはどんな花をイメージしますか? 華やかでインパクトのあるふんいきはとても目を引きますが、花の日持ちが短いことが大きな悩みでした。そんなダリアの日持ちを長くしようとチャレンジしている研究者がいます。

写真:一般のダリアと品種改良のダリア一般のダリア(左)は花びらがしおれてきていますが、小野崎さんが品種改良でつくったダリア(右)は8日たってもピンク色の花がきれいに咲いています=農研機構提供

日持ちの短さを解決するには?

7月の上旬、茨城県つくば市にある農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の野菜花き研究部門の拠点を訪れると、花き遺伝育種研究領域の品質育種ユニット長をつとめる小野崎隆さんがむかえてくれました。
小野崎さんは長年、花の育種について研究しています。ダリアの品種改良を重ね、日持ちがこれまでのおよそ2倍に長くなった3種類の新しいダリアをつくることに成功しました。

ダリアは初夏から楽しめますが、とくに秋に見ごろをむかえます。近年は結婚式のかざり付けなどとしても人気が高まっています。
しかし、せっかく花を買っても、すぐしおれてしまうと、がっくりきます。「日持ち」は消費者が花を選ぶときのポイントのひとつです。「ダリアは切り花にすると、1週間持てばいいほうです。日持ちが短いことが最大の欠点でした」と小野崎さんはいいます。
そこで、夏の暑さに負けないダリアをつくろうと、農林水産省の研究プロジェクト「国産花きの国際競争力強化のための技術開発」(2015~19年度)のテーマのひとつとして取り組みが始まりました。

写真:たくさんのダリアが咲いている農場の風景
ダリアを育成している研究農場=農研機構提供

6年がかりの研究で日持ち2倍に

小野崎さんが用いたのは、花と花をかけ合わせ、人工的に父親の花粉を母親のめしべにかけて、種を実らせる「交雑育種法」という方法です。
「黒蝶」や「かまくら」「ミッチャン」といった22品種のダリアを親にして、さまざまな組み合わせで交配を始めました。とれた種をまいて育て、夏の暑い時期に長持ちする個体を選んではその長持ちする個体間でかけ合わせるという作業をくり返し、品種の改良を重ねていきました。
こうして、暑さに強く、長持ちする3種類の新しいダリアが6年がかりの研究で誕生しました。水に生けて長いもので12日間、品質保持剤を使って約13日間、花がきれいなまま日持ちしたといいます。
去年、ダリアの生産がさかんな秋田、奈良を始め、高知、宮崎の4県にある農業試験場に苗を送って育ててもらい、同じように長持ちしたことから、今年の4月、品種登録を出願しました。

小野崎さんはもともとカーネーションの研究を22年間にわたって取り組んできました。少しずつ日持ちをのばすことに成功し、2005年には、日持ちがおよそ3倍に長くなったカーネーションの新品種「ミラクルルージュ」と「ミラクルシンフォニー」を育成しています。このときと同じ方法をダリアにも応用したのです。
「もっと長持ちするダリアを育成したい」。そう話す小野崎さんはさらに研究を深めていく予定です。

写真:小野崎隆さん「まだまだ研究を続けます!」

みんなのニーズをくみ取り社会貢献 農業研究者の役割は?

みなさんは「流通」という言葉を聞いたことがありますか? 流通とは生産された商品が、消費者に届くまでの流れのことです。
国内の花きの生産者は5万8千戸(2015年)あり、気象条件を生かして北海道から沖縄まで広がっています。大切に育てられたあと、出荷されます。花をあつかう小売業者は全国におよそ2万7千店(2014年)。花の流通には多くの人がたずさわっています。
農研機構の花き生産流通研究領域長の中山真義さんは「研究者の役割は、生産者や市場関係者、小売業者、消費者など、それぞれの立場にいる人たちのニーズをくみ取って、社会の役に立つ研究をすることです。科学だけでなく、文化や経済、社会のなり立ちなどさまざまな知識が求められます」と話します。

写真:並べられたたくさんのダリアの切り花切り花検定室でダリアの日持ちを調査している様子=農研機構提供

花の産業をもりあげようと、2014年には「花き振興法」という法律がつくられました。2015年度に始まった農林水産省の研究プロジェクト「国産花きの国際競争力強化のための技術開発」はその法律の趣旨にそって、花き産業をささえる技術の開発を目的に企画されました。
プロジェクトは19年度までの5年間にわたって行われ、農研機構とともに多くの都県の農業試験・研究機関、大学、民間企業などが、育種や栽培、流通といったテーマで研究に取り組みました。
プロジェクトをとりまとめた中山さんは「たとえば東京オリンピック・パラリンピックに向けては、夏場の花壇の植栽に向いた品種は何か、適切な管理方法は何か、といった研究など、さまざまな研究の成果が上がっています」と話します。それらは技術マニュアルなどとしてまとめられ、植栽業者や生産者が利用できるようになっています。

写真:小野崎隆さんと中山真義さん小野崎隆さん(左)と中山真義さん(右)

みんなの声に耳を傾ける研究者の図:作りやすい品種を求める生産者と、色のきれいな花を求める市場の小売店、そして、長持ちする花を求める消費者がいる

研究者への質問

小野崎隆さんに聞きました!

写真:小野崎隆さん
【Q】研究者になりたいと思ったきっかけを教えてください。
【A】昔から草花の栽培が大好きでした。中学生のころは種苗メーカーから園芸雑誌を取り寄せては熱心に読み、最新の種子を買っては育てていました。花の研究がしたいと思って、進学した京都大学農学部ではカーネーションやダイアンサス(ナデシコ)の染色体や花粉について研究しました。
【Q】農業をテーマにした研究の大切さとはなんでしょうか。
【A】食料やそれを生み出す農業は人間の生活にとって不可欠です。その研究には大きな意義があると思っています。

中山真義さんに聞きました!

写真:中山真義さん
【Q】研究者としての苦労ややりがいはありますか。
【A】研究は、わからないこと、知られていないことを知ろうとする行いなので、予想通りにならないことが多く苦労します。その予想通りにならなかった現象には、だれも予想できなかったことが反映されています。そういう現象を通して新しい事実や考え方を見つけることに楽しみを感じます。
【Q】研究者にあこがれる子どもたちに伝えたいことは?
【A】予想とは異なる結果が得られたときこそ、新しい発見のチャンスだと思ってください。

バトンでつなぐ お茶の品種づくり

あざやかな緑色がきれいな日本茶。近年、うま味にすぐれたもの、香りがよいもの、健康をサポートする機能を持ったものなど、バラエティー豊かな品種が次々と登場しています。お茶の魅力について探りました。

いれ方ひとつで味わい豊かに

静岡県島田市にある農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の金谷茶業研究拠点を7月の中旬に訪れると、かまぼこ状にととのえられた茶畑が青々と広がっていました。
部屋に入ると、広報を担当する茶業連携調整役の吉田克志さんが3種類のお茶をいれてくれました。
「香りをかいでみてください。ジャスミンのような香りがしませんか?」
「こちらはアントシアニン(赤ワインなどにふくまれるポリフェノールの仲間)が入っているので赤いお茶になります」
3種類のお茶は、緑色があざやかでうま味が強い「せいめい」、花のような香りの「そうふう」、めずらしい赤色の「サンルージュ」。どれも農研機構が品種改良したお茶です。
吉田さんは「今回は特徴が大きくちがう3種類のお茶を選んできました。栽培の方法や産地のちがいだけでなく、いれ方ひとつでも味わいが変わってくるのが日本茶です」と話します。
古くから飲まれてきたお茶ですが、品種改良が始まったのは明治時代になってからです。
お茶の木は自分の花粉をめしべにつけて種をつくることができません。枝が伸びたら切って、土に植える「挿し木」と呼ばれる方法で増やします。この方法が開発され、大量生産ができるようになりました。
現在、全国で栽培されるお茶のうち、7割を占めるのが「やぶきた」という品種です。明治時代に民間の人がつくったお茶ですが、品質が良いことから全国に広がりました。その一方、多様化する消費者のニーズにこたえようと、新たな品種づくりが続けられ、これまで国や民間合わせて150以上にのぼる品種がつくられてきました。

写真:農研機構の茶畑の様子とお椀に注がれたお茶 写真は農研機構提供茶畑では「せいめい」などさまざま品種のお茶が育てられています=静岡県島田市の農研機構
農研機構提供

写真:お茶を注ぐ吉田克志さん吉田克志さん

確率は1万5000分の1!

吉田さんは20年以上にわたり、「さえあかり」や「しゅんたろう」といった品種の育成を担当。今年3月に品種登録された「せいめい」の育成チームのリーダーをつとめました。
お茶の品種づくりも長い年月がかかります。うまく品種の登録までこぎ着けるのは高めにみても1万5千分の1の確率にすぎない、といいます。
「せいめい」も交配から登録まで28年かかりました。これまでに13人の研究者がかかわり、すでに定年退職した人もいます。吉田さんは「お茶の育成はバトンリレーです。私も先輩からバトンを受けついで取り組んできました。そして、次の研究者にバトンを渡します」といいます。
お茶の魅力について、吉田さんは「日本茶の特徴は『緑』と『うま味』。茶の葉を蒸して新鮮な色を残すのは日本の技術そのものです。いれ方やつくる方法を工夫することで、多様性をもって広がってきています。自分好みのお茶を探してほしい」と話しています。

夏におすすめ 水出し緑茶

暑い夏には、つめたい水でいれた「水出し緑茶」がおすすめです。
金谷茶業研究拠点でユニット長をつとめる物部真奈美さんによると、お茶はつめたい水でじっくりいれると、しぶみの強いカテキンや、苦みのあるカフェインが出にくくなります。その分、あまみとうま味が引き立つので、「お湯でいれた時とは味が変わります」といいます。
さらに、物部さんは「水出し緑茶が持つ、体の抵抗力を上げる効果の研究が進んでいます」と話します。
お茶にふくまれる、体の抵抗力にかかわる細胞を活発にする成分が、お湯よりも、つめたい水でお茶をいれた時のほうがしっかり働くことが、物部さんの研究でわかってきました。
物部さんは「おいしいだけでなく、体にもやさしい水出し緑茶。ぜひ試してみてはいかがでしょうか」と話しています。

写真:物部真奈美さん物部真奈美さん

水出し緑茶のいれ方は簡単!

[1]茶葉とポットを用意し、少し多めの茶葉をポットに入れ、つめたい水を入れます。水100mlに茶葉3g(ティース プーンに山盛り1杯)が目安です
[2]あとは冷蔵庫で1時間以上ひやしておくだけ
[3]その日のうちに飲み切ってください
※つめたい水の代わりに氷でいれる「氷出し緑茶」ならさらに味わい豊かに

写真:透明な器にお茶を注ぐ様子きれいな緑色がのどをうるおします=農研機構提供

DNAでブドウのおいしさを追い続ける

皮ごと食べれば、ぎゅっと詰まったあまみがぷつんとはじける。大粒の実が黄緑色にかがやく「シャインマスカット」は、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)で生まれた人気のブドウです。最先端の技術も使いながら、そのおいしさにせまる研究がさらに進められています。

シャインマスカットが木に実っている様子たわわに実った「シャインマスカット」。黄緑色にかがやき、粒の大きいブドウです=農研機構提供

6月の下旬、広島県東広島市にある農研機構のブドウ・カキ研究拠点を訪れると、山あいのなだらかな斜面に、白い袋に包まれたシャインマスカットや巨峰、ピオーネなどの果実がたくさんぶら下がっていました。
ブドウ・カキ研究領域育種ユニットの主任研究員、東暁史さんが「果実が成熟する時期に昼と夜の気温差が大きいと、あまくて色づきが良いブドウになるんですよ」と教えてくれました。
東さんはおもにブドウの色の遺伝について、17年にわたって研究を続けています。
小ぶりで赤い「デラウェア」や、大きくて黒い「巨峰」のように、「色」は味や形とならんで、市場での評価にかかわる大事なポイント。しかし、近年は気候温暖化が進み、ブドウの色づきが悪くなることが生産者を悩ませ、気温が上がっても色が悪くならないような品種の開発が求められています。

写真:東暁史さん東暁史さん

品種になるまで20年も

東さんたちは、病気に強い、暑さに強い、といった強みを持つさまざまな品種を交配させ、改良を重ねています。
品種の改良には長い年月がかかります。
「いろいろな親をかけ合わせたものを毎年1千本くらい植えますが、品種になる個体はほとんどありません。20年、30年という気の長い作業なのです」といいます。

決め手はゲノムの解読

最近はブドウの遺伝子についての研究も進んでいます。東さんたちの研究で、ブドウの色を、どの遺伝子が決めているのかがわかってきました。
これによって、実がならなくても葉1枚あれば、遺伝子を調べることで、将来どのような色になるのか、気温が上がっても色が悪くならないブドウなのか、おおよそわかるようになりました。品種改良にかかるコストや労力の削減につながるそうです。
東さんは去年、ほかの研究機関といっしょに、シャインマスカットのゲノム(全遺伝情報)を世界で初めて解読しました。
人間や動物、植物など生き物の細胞のひとつひとつには「DNA」という、親から子へ、細胞から細胞へ伝えられる遺伝情報をになう物質があります。ゲノムとはDNAの遺伝情報全体のことをいい、生き物を形づくる「生命の設計図」とも呼ばれています。
東さんは「シャインマスカットのゲノムをこまかく調べることで、ブドウのおいしさやつくりやすさにかかわる遺伝子の秘密がわかるかもしれません」といいます。
よりあまく、より食べやすく、そして、より育てやすく――。東さんの研究はまだまだ続きます。

シャインマスカットが誕生するまでに20年近く!

1988年
交配(♀安芸津21号×♂白南)
1989年 ~
播種(種まき)して、発芽した個体を台木に接ぎ木し、圃場に定植、育成

写真:接ぎ木・育成の様子写真は農研機構提供

~1997年
一次選抜(食味や果実の肉質、果皮の割れやすさ、病気の出やすさなど、さまざまな形質を評価。ほとんどの個体はこの時点で淘汰、伐採される)

写真:一次選抜の様子写真は農研機構提供

1999年~
全国の公設試験場での栽培試験(この試験をクリアしたぶどうのみが品種登録される)

写真:栽培試験の様子写真は農研機構提供

2003年
新品種候補として選抜。「シャインマスカット」と命名
2006年
品種登録(登録番号第13891号)
2014年
栽培面積が第4位に(現在も拡大中)

東暁史さんに聞きました!

東暁史さんに聞きました!

写真:東暁史さん
【Q】なぜ研究者になりたいと思ったのですか。
【A】子どものころから動物や植物を育てたり観察したりするのがとても好きでした。大学生になって研究をするようになり、植物、とくに産業に結びついている農業系の研究者になりたいと思う気持ちが強くなっていきました。
【Q】研究者としてのやりがいを教えてください。
【A】新しい知識や技術を吸収できることはもちろんですが、研究してきたことが実際に世の中に出て、社会に役立ってくれるとやりがいを感じます。

お問合せ先

農林水産技術会議事務局研究企画課

担当者:中島、井戸原
代表:03-3502-8111(内線5847)
ダイヤルイン:03-3502-7407