このページの本文へ移動

農林水産技術会議

メニュー

2022年農林水産技術ニュース

農業SDGs農業における鳥獣害の現状と対策

鳥や獣が農作物を食べてしまったり、農地を踏み荒らしたりする「鳥獣害」。今、農地では何が起こっているのでしょうか。農研機構畜産研究部門・動物行動管理グループで鳥の研究をしている山口恭弘さんとイノシシの研究をしている平田滋樹さんに聞きました。

写真:双眼鏡を覗き込む山口恭弘さん

水田でスズメの観察をしている農研機構の山口恭弘さん

(写真はすべて農研機構提供)

農業に大きな影響を与える鳥獣害

鳥の研究者、山口恭弘さんは「鳥や獣に家庭ごみを荒らされた、家や学校の敷地に大量のフンを落とされたといった経験はありませんか。これも広い意味では鳥獣害です」と鳥や獣がとても身近な存在であることを話します。

また「農業において、野生の鳥や獣が果樹や野菜、稲などの農作物を食べてしまう鳥獣害にあうと、収穫量が減ってしまいます。対策設備や作物の植え直しが必要になれば、生産コストが大きくなります」とも。

出荷量の減少や生産コストの増大は、販売価格の上昇につながることもあり、農業における鳥獣害は、私たちの生活にも影響がおよびます。

鳥獣害が発生する要因の一つとして、銃を使って狩猟をする人の減少、農業の機械化、山と平地の間にある農業地域「中山間地域」の過疎化などにより、人が農地にいる時間が減り、鳥や獣が農地に近づきやすくなったことが考えられます。

野生の鳥獣による農作物の被害額(令和3年度)

円グラフ:総額約155億円、シカ約61億円、イノシシ約39億円、カラス約13億円、サル約8億円、カモ約5億円、クマ約4億円、その他鳥類約10億円、その他獣類約15億円

※その他鳥類とは、ヒヨドリ、スズメ、ムクドリなど
※その他獣類とはアライグマ、ハクビシン、タヌキ、カモシカなど

出典:「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和3年度)」農林水産省

獣害対策の基本

人里に来るシカやイノシシなどの獣への対策について、イノシシの研究者、平田滋樹さんは三つのポイントを教えてくれました。

「基本的な対策は、(1)柵を設置して入られないようにする侵入防止対策、(2)里山の整備などによって寄り付きにくくする生息環境管理、(3)どうしても増えすぎたものは捕獲する個体群管理です。これらを地域ぐるみで総合的に行うことが重要です」と平田さん。

特に三つ目の個体群管理については「獣害対策の中で多くの人が負担に感じるのが捕獲です」と言います。捕獲の手順は、動物の習性を考慮した場所に、わななどの機材を設置。そしてわなの見回りをし、捕獲した動物を殺処分して適正に処理するというものです。

写真:平田滋樹さん

農研機構の平田滋樹さん。背後のオリはイノシシをおびき寄せて捕獲する「箱わな」

鳥とイノシシの研究を鳥獣害対策に役立てる

農業に影響をおよぼす「鳥獣害」には、農地にやってくる鳥や獣を良く知り、対策することが重要です。農研機構畜産研究部門・動物行動管理グループで鳥の研究をしている山口恭弘さんとイノシシの研究をしている平田滋樹さんの研究がどのようなかたちで鳥獣害対策に役立てられているのかを紹介します。

やってきた鳥や獣がわかる!「鳥獣害痕跡図鑑」

山口さんは鳥獣害の対策について「まず加害鳥獣を見分ける必要がある」と考えました。たとえば鳥が果樹を食べるのに、獣の侵入を防ぐ柵を作っても効果がないからです。しかし、鳥獣が作物を加害している瞬間を見つけるのはとても難しいことです。

そこで山口さんたちは、食べられた作物の痕跡から鳥獣を特定できる「鳥獣害痕跡図鑑」をつくりました。アイデアは以前からあったのですが、いざ作業をしてみると、事例や写真の収集は大変でした。農研機構の研究者たちに加え、外部の研究者や鳥獣害対策を行っている方々にも協力してもらい、2021年1月に公開することができました。この図鑑は、鳥獣害対策の指導をする地方自治体の職員や農業関係者に活用されています。

鳥獣害痕跡図鑑

スクリーンショット:鳥獣害痕跡図鑑

現在は鳥類8種、獣類3種、29の作物の情報が掲載されている。情報は随時アップデートする予定(写真右)
作物の名称をクリックすると詳細を見ることができるようになっている(写真左)

ICTを活用した獣害対策

平田さんを含めた研究機関や企業、国と自治体などが共同で研究、開発をしているのがICT(情報通信技術)を使った捕獲方法です。獣害対策の中でも、増えすぎたものを捕獲する「個体群管理」はICTの恩恵を受けやすいと平田さんは話します。

具体的には、わなにカメラを設置して画像を確認するタイプや、わなに獣が入るとセンサーによって扉が落ち、連絡が来るタイプなどがあります。「イノシシやシカの習性は昔から変わりません。使える技術は増えてきているので、省力化や効率化をはかるのも、被害対策のポイントになります」と平田さん。捕獲の負担を軽減し、不慣れな人が経験値を得る方法のひとつにできるという点も、メリットとしてあげます。

さらに平田さんは「ICT捕獲機材は、従来の捕獲技術や知識を学び、継承するためのツールです。捕獲の原理を理解したうえで機材を使える人を育てることが大切だと考えています」と話しました。

写真:ICTわなが設置されている風景

ICTわなの事例(まるみえホカクン)

センサーやカメラで動物の侵入を検知すると登録者全員にメールが送信される。画像をクラウドで共有し、チャットで相談。遠隔操作でわなの扉を閉める

スマートジビエチェーン

捕獲した動物の活用も平田さんの研究課題です。イノシシやシカの肉を、近年需要が増えているジビエ(食材となる野生鳥獣の肉)として効率良く利用するために、捕獲から消費までをつなぐ「スマートジビエチェーン」の研究・開発をしています。

また、イノシシは約3割が食肉に、約7割は廃棄物とされています。廃棄を減らすために、食用に使用する以外の部分の安全性を確認しながら、魚の飼料や農作物の肥料にする研究も進めています。

スマートジビエチェーンの流れの概要図

研究者紹介

山口恭弘さんと「鳥」

大学で鳥の研究をするようになり、新たな発見の連続に魅了されました。知らないことを自分の手で明らかにすることや鳥の行動の意味を解明することがおもしろく、そのまま研究者の道に進みました。

自分の研究が農家のみなさんの役に立ったり、鳥と人との軋轢を減らすことにつながったりすることにやりがいを感じています。

写真:山口恭弘さん
山口さんが今興味のあるSDGsトピックス

自宅に太陽光発電と蓄電池を設置し、自宅の消費エネルギーの多くを太陽光発電エネルギーでまかなえるように取り組んでいます。また、こまめに電気を消すなどの省エネルギー対策もあわせて行っています。

SDGs目標7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに

平田滋樹さんと「イノシシ」

もともと自然が好きで、野生動物の研究者になりました。イノシシの研究者は国内には数人しかいません。イノシシが増え、農業の被害や捕獲したイノシシの活用などの課題が出てきたことで、たまたま研究が仕事に生かせるようになったと思っています。

イノシシの習性や生態の研究が農業被害の抑制や地域振興につながり、少しでも人の役に立てることがうれしいです。

写真:平田滋樹さん
平田さんが今興味のあるSDGsトピックス

仕事で農家の人やごみ焼却施設の人、地域の人に会います。それぞれの仕事に携わる人たちのおかげで私たちの生活は成り立っていると改めて感じます。環境の問題を解決しながら、住みやすい社会を次世代に残していく必要があると思います。

SDGs目標11:住み続けられるまちづくりを

農研機構

農研機構は農業、畜産、食品分野の国内最大の研究機関です。
茨城県つくば市に本部があり、全国に拠点があります。

写真:農研機構の建物

農業SDGsみどりの食料システム戦略
温室効果ガス削減の「見える化」

見つけて! 温室効果ガス削減の「見える化」ラベル

農業から排出される温室効果ガスを削減するために、さまざまな栽培努力をしている生産者がいます。しかし、そのことを消費者にわかりやすく伝える方法がこれまでありませんでした。

そこで「みどりの食料システム戦略」の一環として、温室効果ガス削減の「見える化」の実証販売がスタートしました。

みどりの食料システム戦略

温室効果ガスを減らす栽培方法をとった農産物には、削減率を星の数で表示(見える化)したマークを付けて販売します。これにより、消費者が環境に良い農産物を見つけ、購入することができます。

写真:「見える化」ラベルを付けて販売している店舗の様子

令和4年度はコメ、トマト、キュウリの「見える化」を実施。今後は、ナス、ほうれん草などの野菜や、リンゴ、みかん、ぶどうなどの果物、茶などで「見える化」された品目が増える予定です。あなたも「温室効果ガスを減らす買い物」をしてみませんか。ぜひお店で見える化のラベルを探してみてください。

写真:「見える化」ラベルを付けてトマトを販売している売り場の様子

温室効果ガスを減らす栽培方法の例

水田の中干し期間の延長

水田の土壌からは温室効果ガスのメタンが発生し、これは我が国のメタン排出量の4割にあたる。一時的に水田から水を抜く「中干し」期間を7日間延長することで、メタンの排出量を最大3割減らすことができる。

写真:水田が一面に広がっている風景
バイオ炭の施用

バイオ炭とは、木などのバイオマスを酸素の少ない状態で、350度以上で加熱してできた炭をいう。難分解性のバイオ炭を農地にまくことで、炭素成分が長期間分解されずに、バイオ炭として地中に貯留することができる。

写真:バイオ炭を農地にまく様子
化石燃料の使用削減

栽培の工夫で冬期の暖房利用を減らす、化石燃料の代わりに木質バイオマスチップを活用する、化石燃料を使用して作られる化学肥料・化学農薬を低減する、などの取り組みにより温室効果ガスの排出を削減できる。

写真:畑に黒いビニールシートをかけてトマトを栽培している様子

SDGsを実現する消費

世界が抱えるさまざまな問題を解決し、より良い未来をつくるために国連で定められたSDGs(持続可能な開発目標)。
目標達成のために「買い物」を通じてできることがあります。日々の「買い物」をSDGsの視点から考えてみませんか。

SDGsの17の目標を三つの層に分けた図、出典:Stockholm Resilience Centreに加筆

SDGsの17の目標は三つの層に分けられる。しっかりとした「環境(生物圏・自然資本)」の土台が「社会」や「経済」の発展を支えている。

環境に配慮した栽培方法の農業

効率良い農業生産を行う上で、農薬や化学肥料は便利な資材であるものの、不適切な使用により環境に負荷をかけています。また、農業は食料を得る重要な手段ですが、温室効果ガスも排出しています。施設栽培の暖房や農業機械は化石燃料を使うので、二酸化炭素を発生させます。

こういった課題に気づき、環境に配慮した栽培に取り組む生産者がいます。化学肥料や農薬をできるだけ減らす、暖房の燃料を石油から再生可能エネルギーに替えて温室効果ガスの排出を減らす、といった工夫です。

イラスト:話している女性。女性のセリフ「環境に配慮することが、社会や経済の持続可能な発展にもつながるのね。」

見た目だけ?商品を選ぶときの基準

同じ種類の野菜や果物などが複数あって、どれを選ぶか迷うことがあります。そんなとき、何を基準に選んでいますか。味は変わらないのに、なんとなく形の整った「見た目の良い」ほうを選んでいませんか。

消費者が買ってくれる見た目の良い農産物をつくるため、生産者はたくさんの資材を使い、手間と労力をかけています。

見た目重視より持続性重視

環境に配慮して栽培された果物や野菜は、傷ありや色・形が不揃いになりがちです。

写真:野菜

形が不揃いな野菜(この写真は有機野菜)

見た目ではなく環境に良いものを選ぶ消費者が増えれば、生産者の環境に配慮した農業生産を応援するとともに、規格外の農作物も有効に使われ、食品ロスの解消につながります。

消費者の行動が変われば、スーパーや食品企業も変わり、持続可能な農業、社会へとつながります。あなたの買い物が「SDGsを実現する消費」になるのです。

農林水産省は、食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立に向け、「みどりの食料システム戦略」を推進しています。

イラスト:話している男性と女性。男性のセリフ「自分で考えて選ぶことが必要なんだね」、女性のセリフ「消費は、望む未来への投票になるのね」

PDF版

  1. 農業における鳥獣害の現状と対策(PDF : 1,537KB)
  2. 鳥とイノシシの研究を鳥獣害対策に役立てる(PDF : 2,426KB)
  3. みどりの食料システム戦略 温室効果ガス削減の「見える化」(PDF : 2,297KB)

お問合せ先

農林水産技術会議事務局研究企画課

担当者:中島、井戸原
代表:03-3502-8111(内線5847)
ダイヤルイン:03-3502-7407

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader