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農林水産技術会議

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「農林水産研究における人材育成プログラム」

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要旨(PDF : 88KB)
平成18年3月28日
改正平成28年2月23日
農林水産技術会議

1 農林水産研究における人材育成について

(1)人材育成プログラム策定の意義

農林水産研究分野における国際競争力を高め、質の高い研究成果を生み出すための基盤は「人」であり、今日、創造性が豊かで挑戦意欲を持った人材を育成していくことが重要となっている。また、農山漁村の6次産業化や食の安全など農林水産政策の実現に必要な研究開発を推進し、その成果の社会実装を図っていくことが重要である。
この様な状況の中、このプログラムは、農林水産研究における人材育成・確保に当たり、各研究組織で取り組むべきと考える共通的な事項を示すものである。
また、農林水産省が所管する試験、研究又は開発を主要な業務とする独立行政法人(以下「研究開発法人」という。)における人材育成方策を示し、各研究開発法人において策定されている人材育成プログラムについて、改正を求めるものである。



(2)人材育成プログラム改正の趣旨

農林水産技術会議は、平成18年3月、研究開発法人を主な対象とする「農林水産研究における人材育成プログラム」を策定した。その後、平成23年4月に改正し、研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律(平成20年法律第63号。以下「研究開発力強化法」という。)などにおける取組内容に対応するため、「研究開発法人が行う人材育成方策」として、テニュア・トラック制の導入、ポストドクターのキャリア開発支援、女性研究者の育成、卓越した研究者の活用、人材交流の強化を盛り込むとともに、「農林水産技術会議事務局が行う人材育成方策」として、研修制度や表彰制度の拡充・改善に新たに取り組んできたところである。
 農林水産省としては、「食料・農業・農村基本計画」(平成27年3月31日閣議決定)、「森林・林業基本計画」(平成23年7月26日閣議決定)及び「水産基本計画」(平成24年3月23日閣議決定)の実現を図るため、行政ニーズを的確に踏まえた研究開発の着実な推進や、レギュラトリーサイエンス(科学的知見と規制や行政措置の橋渡しとなる科学や研究)の実施、農山漁村の6次産業化の戦略的な推進などが極めて重要な課題となっており、これらの課題に研究開発法人など研究の勢力を結集して取り組むことが必要となっている。
また、我が国の研究開発システムの改革を引き続き推進することにより、研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進を図るため、研究開発力強化法が平成25年12月に改正され、イノベーション人材の育成、研究開発等に係る企画立案、資金の確保並びに知的財産権の取得及び活用、その他の研究開発等に係る運営及び管理に係る業務に関し、専門的な知識及び能力を有する人材の確保、研究評価や「目利き」についての専門人材の育成が盛り込まれた。
これらを受けて、農林水産技術会議は、「農林水産研究基本計画」(平成27年3月31日農林水産技術会議決定)において、人材育成の強化の方針を盛り込んだ。具体的には、産学官連携のための専任コーディネーターや、研究成果の生産現場への橋渡し等に取り組むコミュニケーター等として登用できるよう、研究支援人材を育成するための教育・研修の充実やキャリアパスの複線化等を推進し、また、異分野融合研究等を一層推進するため、クロスアポイントメント制度等の活用を積極的に推進することとした。加えて、研究不正の防止を図る観点から、委託プロジェクト研究等における応募条件として研究倫理教育の実施を求めるなど、研究者の倫理啓発を推進することとした。
さらに、第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)では、多様な職種のキャリアパスの確立、女性や外国人といった多様な人材の活躍を促進するとともに、分野、組織、セクター、国境等の壁を越えた人材の流動化促進などを推進することとされた。
 今般の改正は、以上の計画に掲げられた様々な施策を着実に実施するため、新たな人材育成の方針を示すものである。 

2 人材育成の強化のために必要な事項

人材育成においては、柔軟な思考と斬新な発想を持ち、将来にわたる研究の担い手としての優れた研究者を育成するとともに、このような研究者が能力を十全に発揮できるよう研究活動を支える研究支援部門を担う人材の育成、分野、組織、セクター、国境等の壁を越えた人材交流及びネットワークの形成を強化することが不可欠である。農林水産研究における人材育成については、これまでもそれぞれの研究機関において、その特性に応じて進められてきたところであるが、引き続き、次のような事項に重点を置いて取り組むことが重要である。
また、国際社会でグローバルに活躍できる研究者の育成については、「国際的に通用する農林水産研究者の育成に関する基本方針(平成24年9月4日農林水産技術会議決定)」により、国際的活動の適切な評価、国際的な研究経験の確保及び国際的な研究活動を支える研究支援部門の強化に取り組むこととする。



(1)意欲ある研究者の育成・確保

研究者に対する競争的環境の整備、研究資金や研究環境の効果的な付与方法の検討及び公正で透明性の高い評価制度の構築を行うとともに、キャリアパスの複線化を図りながら意欲ある多様な研究者を育成する。また、学生に対するインターンシップの活用、技術講習やサイエンスコミュニケーション等によるアウトリーチ活動を通じて、研究機関の魅力を発信し、将来の研究開発を担う人材の確保に向けた取組の強化を図る。



(2)若手研究者の能力活用のための支援

若手研究者が高い目標にチャレンジしつつ、競争的条件下で計画的に研究に取り組むことのできる環境を醸成することが必要である。
このため、国内外での研究交流や共同研究、各種研修などに積極的に参加することができる環境と、国際会議での講演、在外研究などを通じて、研究者間や組織間のネットワークの活用や国際的な感覚を身につけることのできる環境を、それぞれ構築する。
このほか、長期間の指導・育成を要する研究分野など各研究分野の特性を十分勘案し、その特性に対応した若手研究者の指導・育成システムを明確化する。

(3)女性研究者、外国人研究者などが活躍できる環境の確保

女性、外国人などの多様な研究者がそれぞれの能力を一層発揮できる環境を整備することが重要である。
このため、研究者の性別に関わらず、育児、介護、国内留学、在外研究などライフステージの変化に伴う過渡的状態に対応できるシステムの整備を推進するとともに、女性研究者の新規採用割合の向上を図る。また、外国人研究者について、日本語問題(長期滞在の場合)、生活、年金問題(短期滞在の場合)などへの適切な対応を行う。さらに、招へい制度などを活用し、外部の卓越した研究者の起用・活用を図る。



(4)産学官連携を推進する人材の育成・確保

開発した技術の移転・普及を促進するため、民間企業など外部機関と積極的に交流を図り、産学官連携の取組を推進する専任のコーディネーターや、研究成果の生産現場への橋渡し等に取り組むコミュニケーターの育成・確保を図る。



(5)教育、研修の充実

国内留学などを通じた新たな研究手法、成果の普及を視野に入れた研究成果発信手法及び自己研鑽を通じた研究マネジメント手法の取得を促進する。
また、必要な能力を開発するため、研修とOJT(仕事を通じて必要な技術、能力、知識、あるいは態度や倫理観などを身に付けさせる教育訓練)を能力・レベルに応じ、効果的に活用しながら人材の育成を図る。


3 研究開発法人における人材育成方策

研究開発法人においては、2で掲げた取組を実施するため、法人の特性に応じ、次のように取り組むことが重要である。
なお、法人に与えられた使命の達成に向け、コンプライアンスやリスクに留意しつつ業務を積極的に遂行できる人材を育成するとともに、出前授業やサイエンスカフェなどを活用し、法人の魅力の国内外への発信に努め、農林水産分野の研究者の確保に努める。



(1)研究者の育成・確保

多様な研究者を育成・確保していくためには、各法人における人材育成プログラムに基づき、研究者と管理者とが話し合ってキャリアパスをデザインした上で、新たな研究手法や研究成果発信手法の習得、研究倫理教育など、研究者のライフステージ及び専門性に応じた取組を行うことを支援することが重要であり、各ステージにおいて、次のような取組を実施、強化する。

[1]若手研究者
独創的で優秀な研究者を確保するため、研究者の採用について、若手を対象とした法人独自の採用試験やテニュア・トラック制(若手研究者が、審査を経てより安定的な職を得る前に任期付きの雇用形態で自立した研究者として経験を積む仕組み)を活用するなど、研究者の総数に占める若手研究者の割合の向上に努める。さらに、競争的研究資金への応募の奨励、国内外での研究や研究集会への参加の機会の拡大、海外派遣や留学促進のための支援、アウトリーチ活動の促進など、若手研究者に自立と活躍の機会を付与する。
また、博士課程修了者及びポストドクターが、その適性や希望、専門分野に応じて、将来のキャリア開発に取り組むことを支援する。

[2]女性研究者
優れた女性研究者の能力を活用するため、女性研究者の新規採用割合の目標を30%とし、また、研究者の総数に占める女性研究者の割合及び指導的研究者の総数に占める女性研究者の割合の向上を目指し、数値目標を設定するなどにより、女性研究者の育成・確保を目指す。また、出産、育児などを考慮した業績評価の実施及び女性が能力を発揮でき、生活と仕事の両立が可能となるよう、研究補助者の確保など、ライフステージを考慮した研究環境の整備を促進する。

[3]外国人研究者
優れた外国人研究者の能力を活用するため、外国人研究者の採用に際しては、英語での募集・応募・選考(成果発表など)も可能とし、生活環境のサポートを整備するなど、研究開発法人の採用の拡大・登用に向けた条件整備に努める。

[4]卓越した研究者
給与面や充実したスタッフの配置などによる研究環境の整備やクロスアポイントメント制度の活用を図り、国内外の卓越した研究者の登用に努める。

[5]シニア研究者
豊富な経験とノウハウを蓄積し、俯瞰的な視点をもったシニア研究者の能力を戦略的に活用するために、引き続き研究の第一線で活躍するだけでなく、適材適所に留意した上で、研究マネジメント、後進の指導、知的財産管理、産学官連携、高度な分析・解析、リスク管理、広報などへの登用を図る。

[6]国際認知度の高い研究者
研究者の国際共同研究への参画、外部機関が実施する多様な留学制度(OECDの派遣制度など)の積極的な活用、継続的な国際機関への派遣、国際会議等への対応や農林水産行政に関する国際的な活動への適切な評価の実施、外国人研究者の受入れなどを通して、国際的に認知度の高い研究者を育成する。



(2)研究活動や研究管理において必要な能力の開発

研究開発法人における研究活動は、優れた研究成果の創出に留まらず、革新的技術シーズを事業化へつなぐ応用研究や成果の実用化などの橋渡し、科学技術に対する理解の増進、科学技術情報の収集・提供・分析・戦略策定、他機関との連携・協力などを通じて、大学、民間事業者など他機関の研究開発成果も含めた我が国全体としての研究開発成果の最大化を目指すものである。
このような「研究開発成果の最大化」を目指した研究活動を効果的、効率的に推進していくためには、産学の研究支援や連携の仲立ちをする新たな人材の確保と育成が極めて重要である。このため、外部人材の登用や研究からコーディネートなどへの業務の転向も視野に入れたキャリアパスの複線化を図りつつ、研究開発法人の研究活動において必要な能力の開発を推進する。これらの能力を開発するため、各組織での研修に加え養成講座などの外部研修を積極的に活用するとともに、OJTを効果的に活用しながら、専門的な能力の開発に努める。
また、研究開発法人の職員については、役職に応じて、必要とされる能力の重要性や比重が変化するところである。そのため、研究活動に必要な能力に加え、経営資源の適切な配分など研究開発法人の運営に関する総合的な管理能力の開発を促進する。

[1]研究マネジメント能力
法人評価への対応、研究成果の取りまとめ、研究の企画調整や研究業績評価への対応、更には行政部局や都道府県との連絡調整など研究マネジメント能力の付与を図る。また、研究活動における不適正行為などのリスク管理、薬品などの安全管理に関する知識・能力の付与に努める。

[2]コーディネート能力
研究開発法人におけるコーディネート機能を発揮するため、以下のような能力の付与を図る。



ア     農林水産・食品分野におけるイノベーションを創出し、革新的技術を社会実装につなげるため、研究者と農業者や異分野・異業種を含めた産学官の関係者とのマッチングを図る能力。

イ     商品化・事業化に有効な知的財産の取扱い方針を研究開発の企画・立案段階から描き、研究成果の権利化・秘匿化・公知化・標準化や権利化後の特許等の開放あるいは独占的な実施許諾等の多様な選択肢から最適な方法を採用する知的財産マネジメント能力。
ウ     保有知的財産のPRや実施許諾等を通じて、研究成果を民間企業等に技術移転し商品化・事業化に結びつける能力。

[3]コミュニケーション能力
研究開発の意義や研究成果などをユーザーや一般の方々に分かりやすく伝える能力を全ての研究者に必要なものとして付与を図る。なお、特に地域農林水産研究の推進にあたっては、ハブ機能を強化するため、生産現場の関係者と密に情報・意見交換を行い、ニーズの把握や課題抽出を的確に遂行できる能力の付与を図る。

[4]広報能力
研究成果を広く社会に普及し、その実用化を図っていくためには、双方向コミュニケーションを支援することが重要であることから、インターネットなどの幅広い手段による情報発信を行い、最新の情報伝達手段を適切に活用できる能力の付与を図る。

[5] 情報管理能力
最先端のICT(情報通信技術)を効果的に利活用するとともに、個人情報の保護を含めた情報セキュリティの確保に対応するため、LANシステムの管理・運営、研究情報の収集・提供、データベースの構築・管理などの能力の付与を図る。

[6] 知的財産を扱う能力
研究成果を速やかに社会実装していくためには、研究成果を知的財産として適切に保護・活用していくことが重要である。
このため、知的財産を生み出す研究者に対しては、知的財産の活用に留意した研究開発を進められるよう、知的財産マネジメントに関する基礎知識の付与を図る。
また、知的財産を管理・活用する人材に対しては、先行技術の調査、広く強い知的財産権の取得、知的財産の組合せ、研究者に対する知的財産教育、ライセンスなどの契約における適確な交渉・調整、保有知的財産権の棚卸しなど、知的財産の保護・活用に関する業務を総合的に理解し、研究開発の企画段階から一体的に行う能力の付与を図る。

[7] 技術支援能力
技術支援に必要な能力(ほ場設計、遺伝資源の特性調査、交配・繁殖、実験模型作成、化学分析、調査船の運航、調査機器整備、調査手法開発など高度な専門技術・知識又は資格を要する業務)の付与を図る。また、これらの業務を担う人材については、業務の高度化に対応した育成プログラムに基づき、当該部門におけるキャリアパスを示すとともに、専門技術・知識又は資格の取得を推進する。



(3)人材交流等の強化

行政ニーズを踏まえた研究を推進するために、研究者の行政経験に対して適切なインセンティブを付与するよう努める。また、法人による「橋渡し」機能を強化し、イノベーション創出を促すため、共同研究の促進などによる多様な交流機会の充実、クロスアポイントメント制度などの活用を図り、公設試、大学、民間との人材交流を推進する。


4 農林水産技術会議事務局が行う人材育成方策

行政組織と研究開発組織の橋渡しを行う立場から、農林水産技術会議事務局においては、次の取組を行うことが重要である。



(1)研究開発法人との交流

研究開発法人における研究が行政ニーズを踏まえて効率的、効果的に実施されるためには、研究開発法人の職員及び農林水産省の行政部局の職員が互いの業務内容や方向性についての理解を深めることが必要である。
このため、農林水産技術会議事務局は、特に、研究開発法人から人事交流などにより受け入れた研究者に対して、行政部局が行う研究企画における高度な専門事項などを担わせつつ人材育成を図り、技術行政の役割に対する理解を深めさせる。



(2)研究者の研修及び表彰

農林水産技術会議事務局は、研究者の幅広い知見の取得や能力の向上に資するよう、ポストに応じた研修の受講を促進する。また、公設試の研究者が受講しやすいよう、若手研究者を対象とした研修を各地域で開催する。さらに、レギュラトリーサイエンスなど行政部局と連携した研究を実施する研究者のインセンティブを高めるため、行政施策の推進に貢献する優れた研究成果を上げた者への表彰を行う。


5 人材育成プログラムの実現のために

「農林水産研究基本計画」などに定められた研究開発の重点目標を達成するため、本プログラムに基づき、人材の育成・活用に関する必要な施策を着実に実施していくことが必要である。農林水産技術会議においては、本プログラムに定められた人材の育成のための施策を着実に実施するとともに、研究開発法人に対しては、本プログラムを踏まえ、それぞれのミッションに適するよう人材育成プログラムを改正し、これを採用方針や研修計画に反映するよう働きかけを行うことが必要である。あわせて、改正したプログラムの進捗状況や有効性を定期的に把握し、行政ニーズや社会的ニーズの変化を反映して適宜見直しを行うなど、フォローアップを着実に実施しながら取り組むことが必要である。
また、研究開発法人以外の大学及び公的研究機関などにおいても、若手人材の育成や研究者の流動性の向上など研究開発法人と共通の課題を抱えていると考えられることから、本プログラムを参考に、それぞれに適した人材育成の取組が進められることを期待する。

お問合せ先

農林水産技術会議事務局研究調整課

代表:03-3502-8111(内線5810)
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FAX番号:03-5511-8622