産卵に影響する環境を人工管理
|
太平洋に生息するクロマグロは数が少なくなっており、その資源の回復に向けて漁獲量を制限するなどの対策が行われています。一方で、養殖クロマグロの生産量は増える傾向にあり、天然クロマグロが減っているなか、たくさん養殖すれば天然をとらずに済むので安心と思われるかもしれません。 しかし、クロマグロの場合、卵の採集から稚魚、幼魚まで育てることは難しく、時間や労力もかかるため、一般的に養殖漁業者は天然クロマグロの幼魚(ヨコワと呼んでいます)を漁獲して、それを大きく育てて出荷しています。つまり、養殖といっても元は天然のクロマグロなのです。近年、近畿大学がクロマグロを人工ふ化から親魚まで育て、さらにその親魚から採卵して育てるというクロマグロの完全養殖に成功したと話題になりましたが、このような人工種苗(人工的に卵から育てた稚魚や幼魚を生産)の生産技術開発によって、一般の養殖漁業者にもその利用を促進し、養殖用の天然種苗とバランスを取る必要があります。 大型陸上水槽で産卵に成功!現在、クロマグロの人工種苗生産は海面生簀(いけす)で育てた親魚から産まれた受精卵を採集して開始しますが、親魚の成熟や産卵は水温などの環境に左右されるため、採集できる受精卵の数は年によって大きく変動し不安定です。そこで、親魚の飼育環境を管理して卵を安定的に採集するための技術開発を進めています。 2013年に長崎県にある水産研究・教育機構西海区水産研究所の飼育研究施設内に大型陸上円形水槽が設置されました。日長や水温などの飼育環境を人工的に管理して親魚を育てた結果、14年5月に採卵を目的とした大型陸上水槽では世界で初めてクロマグロが産卵し、受精卵の確保に成功しました。 受精卵の有償配布現在、年間10万尾の養殖用原魚(全長約30センチの幼魚)を供給する技術の開発に取り組んでいます。技術の確立には受精卵を稚魚へ育てる事業者との連携が非常に重要になります。16年にはクロマグロの受精卵の有償配布を開始しました。広く稚魚生産業者へ配布してふ化率や稚魚の生残率などのデータを共有し、安定的に養殖用原魚を育てて養殖事業者へ渡すための研究を進めています。将来、天然クロマグロの減少を心配せずに、おいしいクロマグロをたくさん食べてもらえるようになると思います。
(絵:筒井 博子) 全国農業新聞[外部リンク] 2016年9月23日に掲載されたものを再編集 |
お問合せ先
農林水産技術会議事務局研究調整課
担当者:広報班
代表:03-3502-8111(内線5847)
ダイヤルイン:03-3502-7407
FAX番号:03-5511-8622