「えさと水槽」クリアし成育中
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東京のはるか南、グアム島の西側の深海には、西マリアナ海嶺の山々がそびえています。 海底山脈の上、水深200メートルくらいの水中で、ニホンウナギが産卵します。卵からふ化したウナギ幼生は、ガラス細工のように透明です。黒潮の透き通った水のなかでも完全な保護色になり、天敵から見えません。彼らは海流に運ばれ、台湾近くの黒潮の源流にたどり着きます。5センチほどに成長した幼生はシラスウナギ(ウナギの幼魚)に変態し、黒潮に乗って北上するのです。 日本の沿岸にやって来るシラスウナギを網で集めて池で育てるのが、現在のウナギ養殖です。しかし、近年、シラスウナギが少なくなり、ニホンウナギが絶滅するかもしれないと心配する声が高まっています。 天然のシラスウナギを養殖に使うことも、法律で制限されることになりました。いよいよ人の手でシラスウナギを作る技術が必要になったのです。 これまでも、国の研究所である水産総合研究センターでは、ウナギ幼生の大量飼育に挑戦してきました。自然の海でウナギ幼生が何を食べているのか現在でも解明されておらず、何をえさにすればウナギ幼生を飼えるのか、最初は分かりませんでした。ウナギ幼生は体がとても弱く、水槽の壁や水面に何度も触れると死んでしまうので、ふつうの水槽では飼えません。 研究者たちは、いろいろなえさと水槽でウナギ幼生の成長と生存率を比べ、サメの卵を主な材料とするえさを与えるとウナギ幼生が成長することを発見しました。さらに特別に開発した水槽に約2万8千尾のふ化したばかりのウナギ幼生を入れて、約1年半をかけて飼育し、441尾のシラスウナギを作ることに成功しました。 研究所の飼育室には大きな白い水槽があります。上からのぞき込むと、ウナギ幼生の黒く小さな眼だけがたくさん見えます。よく見ると、細く透明な胴がふるえています。研究所の人がてきぱきとえさを注入していきます。えさやりと水替えに休日はありません。もっと多くのシラスウナギを作れるようになるまで、研究者たちの努力と工夫が続きます。
(絵:筒井 博子) 全国農業新聞[外部リンク] 2015年7月17日に掲載されたものを再編集 |
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