このページの本文へ移動

農林水産技術会議

メニュー

国内のゲノム編集研究開発事例を紹介します!(九州大学農学研究院附属アクアバイオリソース創出センター唐津サテライト編)

世界の食料供給に貢献するために~ゲノム編集マサバ研究に挑む~

アクアバイオリソース創出が始まった

養殖の重要性を鑑みて九州大学は2020年8月、「アクアバイオリソース創出センター」を発足させました。ゲノム編集マサバを手がける唐津サテライトはそれ以前、「唐津水産研究センター」という名称でした。新センターとしていよいよ、世界の食料資源、リソースの創出に踏み出すのです。

魚の育種に加え、魚の卵や精子のもととなる細胞を低コストで冷凍保存し、いつでも容易に魚を生み出せるようにする「生殖幹細胞」バンクの運営、昆虫を用いた新しい飼料や病気を予防するワクチン、陸上閉鎖系で自然エネルギーを利用して魚を飼育する方法の開発などを行い、魚の養殖技術の進展に努めます。

写真 九州大学のさまざまな研究者が結集し、養殖技術の発展による食料供給増を目指す
出典:九州大学農学研究院アクアバイオリソース創出センター資料

食料増産は世界的な課題であり、その中でも良質のたんぱく源である魚の養殖とその活用には大きな期待がかかります。そこで、農学研究院だけでなく工学研究院、経済学研究院も参画。新型コロナウイルス抗体を検出するキットをカイコを用いて開発したことで一躍脚光を浴びている昆虫学者、世界的な研究実績を持つ植物学者など九州大学の財産と言える科学者が結集し多分野の知見や技術を活かして、新たな資源を生み出していこうというチャレンジです。

革命的技術だからこそ、検証を重ね貢献する

この唐津では既に、カタクチイワシを用いたモデル生物実験系も開発されています。
モデル生物というのは、生物の基本原理を解明するために世界各国の科学者が集中的に研究する種のことで、飼育が容易で小型、世代交代が早いなどの条件が必要です。

写真 カタクチイワシのモデル生物実験系確立の論文。
サイエンティフィックリポーツという評価の高い
国際電子ジャーナルに2019年、掲載された

単細胞生物であれば大腸菌や酵母、多細胞生物はキイロショウジョウバエ、植物であればシロイヌナズナなどが知られています。ところが、海産魚はこれまでモデル生物が確立されていませんでした。そこで、坂口圭史・九州大学農学研究院准教授が松山教授らと共にカタクチイワシのシステムを確立したのです。海産魚では世界初とみられています。
カタクチイワシの英名はJapanese anchovyです。これからは、世界各国の科学者が、カタクチイワシを用いて海産魚のさまざまな遺伝子の機能を解明していくことでしょう。遺伝子の機能がわかれば、ゲノム編集によりその遺伝子を狙って変異させ魚を改良させていくことができます。海産魚の改良が一気に進む基盤ができたのです。

松山教授は「ゲノム編集は通常の育種に比べ短時間で確実に品種を改良でき、魚の育種の切り札になる革命的技術です」と説明します。だからこそ慎重にさまざまな角度から検証を重ね、国産技術も開発しなければなりません。日本の水産業発展、さらには世界の水産業、食料資源供給に大きく貢献する研究に、熱い期待が寄せられています。

本記事のポイント

  • 魚の養殖は、良質なたんぱく源を安定して供給できる産業として世界的に期待されている
  • 佐賀県唐津市で、養殖に適したマサバを開発する研究が行われている
  • ゲノム編集技術の活用による、経済性、食品としての安全性、環境影響について慎重に検証されている
  • ゲノム編集技術により、魚の品種改良(育種)は今後大きく発展するかもしれない

記事印刷用PDF

プロフィール

写真 左から村山氏、松永氏、松山氏、大賀氏

松永和紀(まつながわき)氏

科学ジャーナリスト。1989年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)。毎日新聞社に記者として10年間勤めたのち独立。『メディア・バイアス  あやしい健康情報とニセ科学』(光文社新書)で科学ジャーナリスト賞受賞。ほかに『ゲノム編集食品が変える食の未来』(株式会社ウェッジ)など著書多数。

松山倫也(まつやまみちや)氏

九州大学大学院農学研究院海洋生物学研究分野教授。
1984年、九州大学大学院農学研究科博士後期課程修了。農学博士。
日本学術振興会特別研究員、三重大学助手、九州大学助教授を経て、1998年より現職。
専門は魚類生理学で、魚類の配偶子形成機構などの研究を行っている。

大賀浩史(おおがひろふみ)氏

九州大学大学院農学研究院附属アクアバイオリソース創出センター唐津サテライト助教。
2014年、九州大学大学院生物資源環境科学府博士後期課程修了。博士(農学)。
九州大学農学研究院の学術研究員、助教を経て、2020年より現職。
主にマサバを研究対象として、生殖関連脳内ぺプチドなどの研究を行っている。

村山孝行(むらやまたかゆき)氏

唐津市水産業活性化支援センター長。
2012年3月に佐賀県庁を退職(玄海水産振興センター所長、高等水産講習所所長など歴任) 後、同年4月より現職。

<参考文献>
唐津市水産業活性化支援センターウェブサイト(外部リンク)
独立行政法人水産総合研究センター広報誌FRANews,Vol.23(2010)(外部リンク)
家戸敬太郎・博士学位論文「マダイの品種改良に関する研究」(2002)
国立研究開発法人水産研究・教育機構広報誌FRANews,Vol.59(2019)(外部リンク)
Yokoi S et al, An essential role of the arginine vasotocin system in mate-guarding behaviors in triadic relationships of medaka fish (Oryzias latipes). PLoS Genet. 2015 Feb 26;11(2)(外部リンク)
World Economic Forum・How can we produce enough protein to feed 10 billion people?(外部リンク)
国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations)・aquaculture(外部リンク)
令和元年度水産白書(外部リンク)
Sakaguchi, K., Yoneda, M., Sakai, N. et al. Comprehensive Experimental System for a Promising Model Organism Candidate for Marine Teleosts. Sci Rep 9, 4948 (2019).

PDF形式のファイルをご覧いただく場合には、Adobe Readerが必要です。
Adobe Readerをお持ちでない方は、バナーのリンク先からダウンロードしてください。

Get Adobe Reader