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農林水産技術会議

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2003年

1.イネの遺伝子3万2千個の収集・塩基配列解読終了

【当該研究成果のポイント】
生物系特定産業技術研究推進機構(現 独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構)の研究委託を受け、(独)農業生物資源研究所、(独)理化学研究所及び財団法人国際科学振興財団の三者が協力分担し、世界に先駆けて約3万2千種のイネ完全長cDNA(遺伝子に相当する塩基配列) の収集と塩基配列の解読を達成しました。 これらの完全長cDNA は植物内で作られる完全な長さのタンパク質をコードしており、タンパク質の機能解析に役立ちます。また、ゲノム上のどこからどこまでが遺伝子であるかといった遺伝子機能解明研究に必須の情報が得られます。 これによりイネをはじめとする様々な作物の重要な機能や性質に関する遺伝子の研究が促進されることが期待されます。

【期待される効果・今後の展開など】
完全長cDNA の情報をもとに、2万2千個の遺伝子の働きをモニタリングするためのマイクロアレイを開発し、市販化しました。これを用いることにより遺伝子がいつ、どこで働いているかわかるようになります。また、完全長cDNA の配列情報から遺伝子がどこではじまり、どこで終わるかといったこともわかるため、遺伝子機能解明に必須の遺伝子予測精度の向上にも寄与します。今後、シロイヌナズナなどのゲノム塩基配列が明らかとなっている生物のcDNA と比較することなどにより機能予測の精度も向上すると考えられます。 農業生物資源研究所ではMTA を交わした上で、完全長cDNA を研究者に配布するリソースセンターも整備しました。これにより、たとえば、イネの食味の向上や耐病性の獲得、低温などのストレス耐性の向上や新しい植物の利用法の開発などに貢献することが期待されます。

2.世界で初めてシラスウナギの人工生産に成功-ウナギの完全養殖の実現に目処がつく-

【当該研究成果のポイント】
これまで、ウナギ養殖用種苗は100%天然のシラスウナギの採捕に依存。人工孵化・飼育ではレプトケファルス幼生までしか成長しなかった。これに対して飼育方法と飼料の改良を進め、サメ卵・オキアミなどを原料にした新開発の餌を与えることにより、レプトケファルス幼生を変態させシラスウナギにすることに成功した。ウナギを卵から育てる技術を初めて手に入れ,将来完全養殖が可能となる目処がついた。同時に,この技術は天然のウナギ資源の保護に役立つと共に、謎の多いウナギの生態の完全解明にも大いに役立つものと考えられ、水産研究の歴史の中で特筆すべき、世界的な研究成果である。

【期待される効果・今後の展開など】
ウナギの変態過程を観察することが可能となったことから、その機構の解明が一気に加速される。例えば、(ア)変態に関与する遺伝子発現、関連するタンパク、ホルモンなどの解析、(イ)飼育環境(温度、光、塩分、圧力など)と変態との関係解明などを行い、その応用を図ることで、更に容易に、大量にシラスウナギの生産が可能となる。また、卵成熟機能の解明・応用,およびウナギの形質評価と遺伝子マーカーを組み合わせることで、これまで不可能であった、ウナギの「品種改良(育種)」が行えるようになる可能性がある。これはウナギ産業の新たな展開を期待させるものである。

3.バイオマスの多段階ガス化/コ・ジェネレーションシステム試験装置「農林バイオマス2号機」の開発

【当該研究成果のポイント】
平成15年3月、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構(現)九州沖縄農業センターは、プロジェクト研究「地球温暖化が農林水産業に与える影響の評価及び対策技術の開発」において、(株)中国メンテナンス、(株)御池鐵工所との共同研究により、家畜ふん尿や食品残さなどのバイオマス資源を組合せ、エネルギーとマテリアル(飼料・肥料)を生み出す「バイオマスの多段階ガス化/コ・ジェネレーションシステム」の実証プラント(農林バイオマス2号機)を開発し、稼働を開始しました。この実証プラントは想定している実用機の1/10の規模ですが、本システムが実用化された場合には300世帯分の電力供給などが可能となります。

【期待される効果・今後の展開など】
本システムは、家畜ふん尿を常圧過熱水蒸気により炭化を行い、得られた炭化物をガス化して効率的な発電を行うとともに、廃熱を利用して食品残さを乾燥処理することにより飼料を生産したり、焼却灰をリン酸肥料として利用するなど、地域のバイオマスを総合的に有効利用できるシステムとして期待されています。実用機は、実証プラントの10倍程度の規模を想定しており、家畜ふん尿34トンと食品廃棄物7トンの日処理能力を有し、総合エネルギー効率は約70%に達すると試算しています。 昨年12月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定されましたが、本システムが実用化されれば、地域資源循環システムの形成や環境問題の軽減に資することが期待されます。 現在、本システムの運転試験を行い、適正運転条件を調査しており、17年度までに地域の特性を考慮した本システムの適応・導入条件やコスト評価を明らかにすることにしています。その後、本システムの導入が効果的であると考えられる地域において、実用機の導入に向けた検討を進めていく予定です。

4.イネ種子における低グルテリン形質の発現メカニズムの解明

【当該研究成果のポイント】
LGC1 はイネの種子タンパク質であるグルテリンの含量が低下した農業生物資源研究所育成の突然変異系統で、タンパク摂取低減のための品種の育成に活用されています。今回、この低グルテリン形質が最近の分子生物学分野で注目されている「RNA 干渉」により引き起こされていることを報告し、これがRNA 干渉により突然変異形質が引き起こされることが示された最初の例として英国の科学雑誌Nature にも紹介されました。 具体的には向かい合っている二つのグルテリン遺伝子の間が失われることにより、一部が2重鎖構造をとるヘアピン型のRNA が作られ、これによりRNA 干渉が引き起こされていました。

【期待される効果・今後の展開など】
RNA 干渉法は効率的な遺伝子発現抑制法として最近注目され、実験的に遺伝子発現を抑制し、その機能を調べるために使われています。この研究でRNA 干渉は相同性に依存した形で遺伝子発現を抑制することが示され、標的となる遺伝子との相同性を調節することにより複数の遺伝子の発現程度を制御できる可能性を示しています。 現在、αグロブリン遺伝子を失ったコシヒカリの変異系統とLGC1 の交配により、さらに易消化性タンパク質の含有量が少なく、良食味の品種を育成しています。

5.世界で初めて!!体外で生産した受精卵の非外科的移植による子豚の誕生

【当該研究成果のポイント】
動物衛生研究所は豚の体外生産胚(受精卵)の非外科的移植による子豚生産技術を世界で初めて開発しました。 牛では体外生産胚(受精卵)の非外科的移植による子牛生産技術が実用化され、品種改良や優良子牛の増産に広く活用されています。一方、豚では胚の体外培養技術が確立されていないことに加えて、子宮が解剖学的に複雑な構造であることから、体外受精で作出した胚の非外科的移植による子豚生産に成功した例がありませんでした。 そこで、今回、豚受精卵培養用の培地として、病原体などの未知因子を含む可能性の少ない化学的組成の明らかな完全合成培地PZM を開発し、これをもとに豚胚(受精卵)の体外生産系を構築しました。この体外生産系で得られた胚を、6頭の雌豚に深部注入用人工授精カテーテルを応用し非外科学的に移植した結果、1頭が妊娠し子豚7頭を分娩しました。

【期待される効果・今後の展開など】
体外生産胚の非外科的移植による生産技術では、と畜由来の卵子が使用できることから胚の生産コストが安価となること、受胚豚の負担が軽いことから養豚業への貢献が期待されます。 また今後、豚における受精卵移植が普及することで、豚の慢性疾病の清浄化等の衛生問題の改善や母豚側からの改良促進・優良遺伝子の保存などの活用が期待されます。

6.ペプチド薬を多量に含む遺伝子組換え米の作出システムを開発

【当該研究成果のポイント】
農業生物資源研究所と日本製紙株式会社は共同でペプチド薬を多量に含む遺伝子組換え米を作出するシステム開発に成功しました。これまでに発見されている様々なペプチド薬を米に蓄積させることが可能になりました。 さらに、同システムを利用し、株式会社三和化学研究所と農業生物資源研究所、日本製紙は共同でインスリン分泌を促すペプチド薬「GLP-1」を多量に含む米の作出に成功し、さらに、試験管レベルで活性があることを確認しました。

【期待される効果・今後の展開など】
今回開発された組換え体は生物研で開発された「米へのペプチド蓄積システム」と日本製紙の開発した遺伝子組換え技術「MAT ベクターシステム」を組み合わせた融合技術を用い、三和化学の「ペプチド=デザイン技術」によって作出されたものです。そのため、今回開発されたGLP-1 を高蓄積した組換え体は選抜マーカーを持っていません。 現在、多くの糖尿病患者は、インスリンを注射するなどして血糖値を下げています。主食である米から、「GLP-1」を摂ることで、インスリンの分泌が促され、血糖値が下がるものと考えられることから、2型糖尿病患者に朗報をもたらすものと期待しています。今後は動物試験により有効性や安全性などを検証する予定です。

7.モモとナシのDNA鑑定

【当該研究成果のポイント】
モモとナシにおける品種判別のための信頼度、識別能力の高いSSR(Simple Sequence Repeat=単純反復配列)マーカーを開発した。本技術を利用することによって、初めてモモやナシの親子鑑定が可能となった。例えば、モモ「白鳳」の枝変わり品種とされている「日川白鳳」は、原品種の「白鳳」と異なるSSR マーカーを持っており、枝変わりではないことが明らかとなり、現在の日本の生食用モモの多くが血を引く「白桃」の起源品種は、明治初期に中国から導入された「上海水蜜桃」であることが示唆された。また、ナシ「豊水」は、「リー14」×「八雲」から育成されたとされていたが、両方とも親ではないことが判明した。

【期待される効果・今後の展開など】
モモやナシを始めとする果樹類では、接ぎ木等のクローン増殖の際の取り違えなどによる異名同種や同名異種があったり、由来の不明な偶発実生品種や枝変わりとされる品種が数多く存在する。DNA マーカーを用いた品種の親子関係の鑑別が可能になったことにより、品種の由来が明らかになるとともに、品種育成に用いる親の決定において重要な知見が得られる。 また、本技術は、モモやナシの品種名の不当表示を抑制する手段として期待できる他、外国からの果実に対し、品種育成者の権利を侵害する不法輸入を防止する手段として有効である。また、品種登録や権利侵害でのトラブルも増加しており、本マーカーは、これらの問題を解決する技術として期待される。なお、本マーカーは他の果樹にも利用可能で、モモ用マーカーは、スモモ、ウメ、アンズ、オウトウ等に、ナシ用マーカーは、リンゴ、ビワ、マルメロ等に利用できる。

8.オカラを原料にした耐水性生分解性素材-グルテンミール添加の射出成形法でどんな容器も成形可能-

【当該研究成果のポイント】
 ●ゼイン(トウモロコシ種子蛋白)を含むコーングルテンミールにオカラを主な原料としてエクストルーダーでペレット化し、そのペレットを射出成型することに成功した。
 ●成型処理は、生産性(コスト、成型性など)の利点が多い射出成型法を用いた。蛋白質の射出成型法は食総研が特許を有しており、原料に合わせて高い圧力の設定、厳密な温度設定、射出スクリューの形状などを改良することで、安定的な射出成型法を開発した。

【期待される効果・今後の展開など】
 ●オカラだけでなく、野菜等の残さ、茶葉残さ、キノコ廃培地、米ぬかなど種々の食品廃棄物から資材を得られることで、コスト低減を図っている。
 ●植物の育苗ポットなどの製造では、現在栽培試験を花卉研究所などの協力で進めている。また、材料をペレット化する際に、植物の生長に有効な微量元素などを添加しておくことにより、土壌中で生分解するにしたがって、拡散溶出し、安定的に植物へ供給することが可能となる。現状では、破断強度、伸張率ともに大きく低下してしまうことから、品質改善のための材料の配合、射出条件の検討を進めている。
 ●射出成型により容器の形状はどんなものにも対応することができることから、今後は育苗ポット以外に、食品容器などへの利用を図っていく。

9.大型鯨類の新種発見!

【当該研究成果のポイント】
インド洋・太平洋熱帯海域および山口県で得られた9頭のクジラのDNA解析等から、これらが新種のヒゲクジラであることを明らかとした。また、これまで分類が不明確であったニタリクジラとイーデンクジラ(仮称)を明らかな別種として分離した。新種の大型ほ乳類が発見されることは極めて稀であり、ヒゲクジラ類としては1913年以来のことである。

【期待される効果・今後の展開など】
ナガスクジラ類の分類が明確になり、学術的な面での貢献だけでなく、IWC(国際捕鯨委員会)で議論されているクジラの資源管理にとって貴重な情報を提供することとなった。クジラ資源の適正な管理のためには種ごとの分布域、生態、個体数の把握などが必要であるが、その基礎となる情報を提供し、合理的な利用への道を開くものである。 これまで混同もみられた小型のナガスクジラ類の分類について、頭骨あるいはDNAがあれば分類が可能となったことから、太平洋西部海域における小型ナガスクジラ類の分布、回遊などについて再調査し確定することが可能となる。 

10.昆虫変態のキー酵素遺伝子を発見-安全な農薬の開発に期待-

【当該研究成果のポイント】
幼若ホルモンは、昆虫の変態を抑制するホルモンで、脳の後方に存在するアラタ体で合成・分泌される。幼虫期の昆虫体内には高濃度の幼若ホルモンが存在するために幼虫脱皮を繰り返すが、終齢幼虫になると幼若ホルモン濃度が低下・消失するために、変態(蛹化)が起こる。本研究では、カイコのアラタ体から、新規の幼若ホルモン合成酵素である幼若ホルモン酸メチル基転移酵素(JHAMT)の遺伝子を単離した。本遺伝子は若い幼虫では継続して発現しているが、終齢幼虫になるとその発現が完全に停止する。このことから、終齢幼虫のアラタ体ではJHAMT 遺伝子の発現が停止してJHAMT タンパク質が無くなるために幼若ホルモン合成が停止し、その結果昆虫の変態が誘導されるものと推察される。

【期待される効果・今後の展開など】
野菜では、カイコと同じ鱗翅目の仲間であるコナガ、ヨトウムシ、オオタバコガ等の幼虫による被害が多く、その防除は生産上重要である。カイコJHAMT 遺伝子の発見によって、幼虫の脱皮・変態を司るJHAMT タンパク質を標的とした環境や人に対して安全な農薬の開発につながるものと期待される。すなわち、カイコJHAMT 遺伝子との配列の類似性に基づき、害虫・天敵由来のJHAMT 遺伝子を単離し、さらに、それらの遺伝子から作成した人工タンパク質を用いて害虫のJHAMT に対する選択的阻害剤を試験管内でスクリーニングすることが可能となる。選択的JHAMT 阻害剤は、害虫のアラタ体における幼若ホルモン合成を阻害することで早熟変態を誘導し、幼虫による農作物への加害を防ぐことができることから、環境や人に対して安全な農薬となることが期待され、環境保全型害虫防除技術の推進に大きく貢献する。

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